飛鳥君に連れて行かれたのは確かに学校だった。
校庭が広い。建物全体はやっぱり古いイメージがあるけど、別にボロいっていわけでもない。
例えて言うなら、そうだな。お寺みたいな造りの建物。何造りっていうんだっけ、こういうの。
「こっちです」
むむっと唸る私の手を引いて飛鳥君が誘導する。飛鳥君は校庭を突っ切って、一つの建物のところまで歩いていった。
「いるかなぁ。あ、ちょっと待っててください」
「うん」
頷いて建物の中に消えた飛鳥君を見送って、なんとはなしに自分の手を見下ろした。離されてしまった手が寂しい。握ったり開いたりと意味の無い行動を繰り貸して、たった今歩いてきた道…校庭を振り返った。
ただ待っているのも暇だったので、建物から離れないよう近場をぶらぶらと歩いてみることにした。
「さーん」
しばらくぶらぶらと歩き回っていると遠くで飛鳥君が呼ぶ声がして、私は慌てて踵を返した。
小走りになってもといた場所まで戻ると、飛鳥君とその隣にやたら綺麗な顔をした男の子と、清楚可憐という言葉が似合う美少女がいた。飛鳥君が私を見てほっとしたような顔をする。もしかして心配かけたのだろうか。
飛鳥君に向かって小声でごめんね、と謝ると笑顔でいいえと返してくれた。
「飛鳥、この人が?」
「はいそうです」
「そうか」
まじまじと見つめられる。
翡翠色の瞳でじっと見つめられたまま、どうしたらいいか分からなくなった私は視線で飛鳥君に助けを求めてみるが、苦笑を返されただけだった。助けてくれないらしい。
「えぇと、初めまして。…です」
「俺は九条綾人だ。この天照館高校の生徒自治執行部総代を務めている。こっちは紫上結菜だ」
「はじめまして」
さらさらと音が聞こえてきそうな茶の髪を肩口から零しながら礼儀正しくお辞儀をされて、慌ててお辞儀を返した。高校生なのにどうしてこんなにしっかりしているのだろうか。
頭を上げて居住まいを直した私を見て、紫上さんが何か言いたそうな顔をしていた。
なんだろう。首を傾げてもしかして、と思い当たる。飛鳥君に借りた学ランの上着を着たままだからだろうか。
「さん、でしたね」
「う、え? あ、はい」
「あの、つかぬ事をお伺い致しますがその格好は…」
「えーと、まあその色々と事情がありまして…」
そういうほか思いつかない。どう説明しろというのだ。
一から話せば長く…いやさほど長くはならないだろが、面倒だった。例え話しても飛鳥君のように信じてもらえるとは限らない。
笑って誤魔化す私に紫上さんは小さく首を傾げていた。
「まあここで立ち話もなんだ。中に入ってもらおう」
九条君がそういって、私たちは建物の中へと場所を移した。