何も無い空間。
灰色の世界。そのなかには立っていた。
ぐるりと周囲を見渡してみても、生を感じられるものは何一つない。だってここには風が感じられない。
大地に目を落とす。本当にこれは大地だろうか。そんな疑問が胸を過ぎる。
空を見上げても、突き抜けるような青空は見当たらず。按鬱とした空が広がるばかりだ。
色、香、音……。
全てが失われ、何も無い自分だけの世界。全てが死に絶えた、死の世界。
「……寂しいね」
呟いた声は誰の耳にも届く事がない。
一歩、二歩。足元を確認するよう前に踏み出すと、遠くで何かが動いた気がした。
誘われるよう目を向けると、建物のようなものが崩れていくのを視界に捕らえた。音はしないのに、その崩れかたはやけにリアルでは思わず歩き出した足を止めて、それを眺めた。
一つ壊れたならば。連動するように、その外の存在する全てが音を立てるように崩れはじめた。
大地が揺らぎ、空が割れる。
「やっ……」
立っていられなくなって地面に両手をついて愕然とした。
あろうことか、自分の体までもがぼろぼろと崩れ落ちて行くではないか。
「やだ、怖い……!」
目を閉じる。瞳から涙が溢れ出す事はない。ただ乾いた吐息ばかりが口から漏れる。
全てが崩れて無くなって行く。自分の姿さえ見る事が出来なくて、意識だけははっきりとある。気がつけば真っ暗な闇の中に、ただ佇んでいて。右も左も、上も下も、わからない。
探るように手を伸ばしても、姿は消えてなくなってしまっている為に何かにいくつくこともなく。どうすることもできない、漠然とした恐怖には短く悲鳴を上げた。
「―――!」
はっとして目を開けるとルックの顔が間近にあった。
いやな頬を伝う。荒い息を付き、ぐるりと見渡す。ここはルックの部屋だ。
「私……」
混乱する記憶の中。口元に手を当てて思い出した。自分は確かルックに夢を見たいと、頼んだのだ。それが、あれ。あの全てが消えてなくなっていく世界の夢。
「大丈夫? 」
俯いたに少し不安気にルックが声を掛けると、は頷いてそのまま身体を倒しルックの胸に頭を預けた。
「怖、かった……」
「だから言ったじゃないか」
「うん。でも……よかった」
何がよかったのだ。訝るように眉根を寄せるルック。の肩に手を置いたまま、彼女を見下ろしていると顔を上げたと目が合った。疲れたような笑顔を見せる。
「ルックの思いがね、少しだけわかった気がして……気がするだけなのかもしれないけど」
は再びルックの胸に頭を預けた。
ルックは渋面を浮かべての髪に手を添える。やはり本当のところ、には見せたくなかった。あのような忌まわしい夢。絶望しか抱けなくなる、この世界の終焉など。
ルックは知っていた。あの夢はいつか訪れるこの世界の終焉の時であるのだと。風の紋章は、ルックにそれを見せているのだと。
には告げずにいようと思った。余計な心配をかけたくない。不安を与えたくない。
が……大切だから。
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