が初潮を迎えてから共に眠る事が少なくなった二人だが、それでも昔のなごりで互いの部屋で眠る事がしばしばあった。
そんな時ルックは決って夢を見る。同じ夢を。
灰色の世界。音も、光も、風も無い全てが死に絶えた、死の世界。
始めはこれが意味するものがなんなのかわからなかった。ただいやな夢だろうと、それだけを思っていたものだけれど。
ただの夢ではないのだと気付いたのはいつだったろうか。繰り返し、見続けた日のことだったと思う。夢は夜眠るときに限って見るものではない。昼間の僅かなうたた寝の時でさえも灰色の悪夢はやってくる。
紋章が見せる夢であると、これは記憶であるとルックは気付いた。
夢を見て目覚めるといつも、が傍に居てくれた。まるで知っているように、計ったかのようなタイミングで。本人にまるきり自覚はないのだろうけど。
酷く安心した。襲いくる虚無感、喪失感。絶望感の後に訪れる、安堵。それはとても、心を落ち着かせてくれるものだった。
「大丈夫、傍に居る」
いなくならい。ここにいる。
ルックが灰色の夢を見た日には、はいつもそうやって抱きしめてくれた。それは初めて夢を見た時から変わらずに、今も続いていることだった。
「私も見てみたいな」
呟くようにもらされた言葉にルックは驚愕してを見た。
はあっと口元を押さえ、睨むように視線を送るルックにバツが悪そうに視線をそよがせる。
「いや、あのね……そういう意味じゃなくて」
何がそういう意味じゃないのか。言っていて自分でもよくわからないけれど、とにかくルックの怒りに触れる発言をしたという自覚はあった。
「怒らないでね。興味本位とか、じゃない……のよ」
語尾が掠れて消えるのは自分で言った言葉に自信が持てない為か否か。量り兼ねるがはただね、といって真っ直ぐにルックを見た。の手はルックの手を握り締めている。
「だってルックばっかり怖い夢を見てる。同じ真の紋章を宿す者なのに、私はルックの辛さを全然しることが出来ない。分けられたらルックはもっと楽になれるかと思って」
そんなことをルックが望んでいないことくらい、はよくわかっていた。わかっていて言ったのは、やはり彼を思うがゆえだった。
ルックは黙りを見つめる。一度目を伏せて、言った。
「君に見せてあげることはできるよ。でも僕はそれをしたくない」
「どうして?」
「ならもし君が……自分が辛い夢を見たり、辛い思いをしたりして。それを……自分が大切だと思う人に味合わせたいと思うのかい?」
「思わないけど……って、え? ルックちょっと待って」
ルックの言葉に聞き流してはいけないものを見付けて、は慌ててとめた。
ルックはようやく気付いたのかと言わんばかりの表情でから目を逸らしている。彼の顔は心なしか、赤い。つられるようにも赤くなり、思わずルックから目を逸らした。
握り締めたままの手が余計に恥ずかしい気がしてならない。
「あの、ね。ルック?」
「……何」
「私はルックにとって大切なの?」
「もう一度言って欲しいわけ?」
はぶんぶんと首を振った。栗毛が大きく揺れて背中で跳ねた。
聞きたくないわけではないが、もう一度改めて言われるとさすがに恥ずかしい。
赤い顔のままはルックを見て、にへらと笑った。
「嬉しいなぁ……。でもね、ルック。だったら尚更」
ルックが見る夢を見たいと、は言った。少しの迷いも無い瞳で。
「……わかったよ。後悔しても知らないからね」
は頷いた。
どうやってルックがにその夢を見せるのかはわからなかったけれど、目を閉じるよう促されたので黙って目を閉じる。ルックの手のひらがの額に触れた次の瞬間、急激な睡魔がを襲った。
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