6.



 浮かれた足取りで前を歩くをルックは呆れたように見ていた。
 今に転ぶ。そう思った次の瞬間、はルックの思惑通り盛大に転んだ。「きゃっ」と可愛らしい声を上げて地面と仲良しになった彼女に、ルックは溜息一つついて手を差し伸べてやる。
「全く何をやってるんだか」
「えへへ。だって嬉しくて」
 痛みもなんのその、といった様子で笑うにルックは軽く引く。何故それまでに浮かれるのだろうと、彼の表情は心理を雄弁に語っていた。
 二人は現在、トランの首都グレッグミンスターへと赴いていた。
 レックナートから使いを頼まれた帰り、買い出しに立ち寄ったのだ。七歳のときレックナートに拾われてから外界に出たことがないは、ルックもそうであったがおよそ五年ぶりの外出になる。浮かれるな、というほうが無理な話だ。
 元々が住んでいた村は山奥にひっそりと在るような所だったので、これほど賑わう街がものめずらしいのだろう。あちらこちらに興味を示している。ルックに至っては、多くの人間が行き交うその現象が珍しいというか、少々鬱陶しく感じているのだが。
 あちらこちらに小走りで向かいながら手招きをするに、ルックは苦笑を浮かべながらも近づいた。
「何か見付けたの?」
「見て、これ可愛い。ブレスレット? あ、アンクレットかな」
 露店に飾られたアクセサリ。どれも魔力のこめられた物ではなく、ただの装飾品としての役割をもつもののようだった。沢山並べられた中の一つが気に入ったらしく、手に取ったは光に翳すようにして見ている。
 銀の鎖に青、赤、緑の石の付いた女の子が喜びそうなものだった。
「欲しいの?」
「う、ん……欲しいけど、手持ちが少ないからいい」
 ルックに笑顔を向けていうだが、残念そうにアクセサリを手放す様子を見て、ルックはこれから買わなくてはいけないものと その残金とを瞬時に頭の中ではじき出していた。
 ……これくらいなら問題ないだろう。出された結論はそれだった。
「平気だよ。それくらいなら買っても」
「え、本当!?」
 ぱっと振り向くの表情は喜びに輝かんばかりだ。ルックが頷いて店主に代金を払うとは嬉しそうに受け取ったアンクレットを握り締めた。
「ありがと、ルック」
 頬を紅潮させて礼を述べるを手近な場所に座らせて、ルックはアンクレットを渡すように言う。
 首を傾げながらもはルックにそれを手渡した。
「右足、少しだけ前に出して」
 ルックの意図する所を掴んだは、更に顔を赤くして首を振る。
「い、いいよ。大丈夫、自分でやる!」
「つけにくだろ。素直にやらせなよ」
「だってなんか……恥ずかしいよ」
「ここで押し問答してる方がずっと恥ずかしいと思うけど? さっさと終わらせるから、ほら黙って足出す」
 しばらく躊躇っていただったがやがて諦めたように顔を真っ赤にしながらも右足を前に出した。
 の前にしゃがみこんだルックは器用な手付きで、真白く細いの足首にアンクレットを巻き付ける。ひやりと冷たさに、が僅かに肩を揺らした。
 ルックの手が離れた自分の足を見下ろす。光を弾き、シャラと揺れるそれを見ていると先程までの恥ずかしさも吹き飛んで、嬉しくなった。
 思わず笑みを零してしまう。そんなを見てルックも口元を綻ばせていた。
「さて。買い出し済ませて帰ろうか」
「うん!」
 立ち上がってルックの手を掴むと、は元気に歩き出した。
 その足首ではアンクレットが動きに合せて揺れ続けていた。




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