戦争の終結と共に、魔術師の島に戻ったルックはまたいつものような生活が始まった。
ルックが戻った事に、は嬉しそうに笑っていた。ルックが戻ってきてくれたことだけでも単純に嬉しいのだろうけれど、 もう一つの理由は仕事の量が減るということだった。ルックがいない間それなりに忙しかったようで、そういえば一年前より少しやせたように思えた。元々細い上に更にやせてどうすると突っ込みたくなったが、そうさせてしまった原因の半分以上は自分にあるのかもしれないと思って口にする事はなかった。
「ねえ、ルック。久しぶりにあの場所、行かない?」
あの場所と言われて思い当たる伏しは一つしかなかった。ルックは一つ返事で頷くと、朝食を終えどことなく嬉しそうなと共にあの場所に向かった。
島の北側にある、守りに囲まれるようにして在る古木。今はもう花を咲かせることなく緑の葉を茂らせているだけの木だが、はここが好きだった。
八年前、は始めてルックにこの場所を教えてもらった。その時数十年、数百年に一度花を咲かせる奇跡のような瞬間の巡り合ったのだ。
あの後花はすぐに散ってしまったけれど、その時の様子は二人の中にいつまでも鮮明に焼きついていた。
「ルックがいない間ね、私たまにここに来てたんだけど」
昔のように手を引いて歩きながらは言う。
「見て」
指差された先に目を向けてルックは、あと声を漏らした。はね? と笑みを称えて首を傾ける。
古木は、小さいながらも根元から新しい芽を出していた。
「すごく古い、おじいちゃんみたいな木だけど、ちゃんと新しい芽が出せてるの。すごいでしょ? 私なんか感動しちゃって。早くルックに見せたいなってずっと思ってたんだ」
まだあるんだよ。そう続けてはルックの手を引き、気の背面に回り込んだ。そういえば木の後ろ側は見たことがなかったな、などとルックは考える。
巨大な木には、大きな空洞があった。
何だと覗き込もうとするルックをが止める。口元に人差し指を立てて、しーっと小さく声を上げた。
極力動かぬよう、静かに木を覗き込むに習うようにルックも覗き込む。そして見付けた。が見せたかったものはこれか。
「可愛いでしょ」
空洞の中には愛らしい兎の親子がいた。カットバニーなどのモンスターではなく、純粋なただの兎だ。長い耳を垂らし、ひくひくと鼻をせわしなく動かして赤い瞳で二人を見ていた。
「ね? この赤ちゃんね、つい最近生まれたんだよ……って、赤ちゃんだもん当たり前だよね」
自分で言った言葉に、自分で突っ込んで笑う。
大分浮かれているにルックは顔の筋肉が緩むのを感じた。
本当に、は昔から変わらない。
「君が好きそうだよね」
「うん!」
満面の笑みで頷くに、ルックはよかったねと言った。
戦争があって、沢山の人が死んで行く。けれど失われて行く命とは逆に、生まれてくる命もあるのだと。
ルックがいない間、はここで生まれたばかりの小兎を見て、そんな事を考えていた。
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