10.



 戦争が起こっている。星が大きく動く時だとレックナートに聞かされたのは、帝国からの使者が来て一月ほどが過ぎた頃の事だった。
「戦争ですか?」
「ええ。帝国軍と解放軍と名乗る者達の戦です。解放軍を率いているのは、以前この島にやってきた少年です」
「もしかして君ですか?」
 レックナートは肯定の意を見せた。
 以前出会ったとき、はただの少年のようだった。そう、普通の。どこにでもいる、他の少年たちと何ら変わらない明るい少年。彼が帝国に仇なす解放軍を率いている……。が出会った後、彼に何かが起こったのだろう。
「そうですか」
は隣りのルックを見た。ルックは何か思うところがあるのか、だんまりで師の言葉を聞いている。 何かを考え込むようなルックに声を掛けようとしたが、それより早くレックナートがの名を呼んだ。

「あ、はい」
 ルックへと向けていた顔を慌てて師の方へ向ける。彼女は自分たちの師としてではなく、バランスの執行者としての顔を二人に向けていた。
「ルックには解放軍に参加してもらうこととなります。星を背負う運命にある者として」
「え、ルックが……?」
。あなたにはここに残ってもらいます。残念ながらあなたは星を持たぬもの。解放軍に加わる必要はないでしょう」
 は僅かにショックを受けたが、大人しく頷いた。
 自分が着いて行ったところで何の役にも立たない事くらい分かるし、足手まといになるくらいならここで 大人しく待っている方がよかった。
 ただ、ルックが戦争に参加するという。
 帝国軍と解放軍の戦争。星が大きく動く時であるということは、この戦は早期終結とはならないのだろう。
 どれくらいの間、ルックと合う事が出来なくなるのか。半年? 一年、二年……?いやもしかしたらもっと長いのかもしれない。
 そのことには寂しさを感じた。
 俯いてしまったを慰めるように、ルックが彼女の頭に手を置く。
「……大丈夫だよ。そんなに長引く事もないよ。一年かそこらで終わるさ」
「そう、かな」
 いまだに不安そうなに頷いて、ルックはレックナートと共に姿を消した。
 トランの湖にある解放軍の本拠地に向かう為だった。




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