気がついたら、なんだか立派な朱塗りの門の前に座り込んでいた。
「…へ?」
呆然と見上げたまま、瞬きを繰り返す。
ついさっきまで私は自分の部屋に居たはずだった。その証拠に来ているものは簡素なもので、上はキャミソール、下はジーンズという格好だ。
そう確かテレビを見ていたのだ。ベッドのふちに座って、何の番組を見るでもなくぱちぱちとリモコンでいろいろな番組を映していた。そうしたら突然テレビが真っ暗になって、故障かと思って近づいたとたん、明るい光が画面からあふれて…気づいたらここにいた。
「えー」
夢、だろうか。あの明るい光で気絶をして、もしかしたら私は今夢を見ているのかもしれない。
そう思うものの、しかし夢だと言うのならどうしてこうも思考がはっきりとしているのかと疑問にもなる。
まあ座り込んだままでいるのもなんだし、と立ち上がり私は周囲をぐるりと見まわした。
目の前には朱塗りの立派な門。門の向こうには古い町並みが見える。背後にはうっそうと茂る森。どちらかへ進めといわれたら迷わず門の向こうへと行くことを選ぶ。わざわざ遭難するかもしれない道を選ぶバカはいない。
でもなんだか目の前にそびえる門があまりに立派過ぎて、くぐり抜けることに気が引けた。なんだろう…妙な感じだ。
首を傾げてしげしげと門を眺めていると、後ろでがさがさと音がした。
人がいるのだろうか。だとすればここがどこか聞けるかもしれない。
微かな希望を抱いて振り向いた私は、しかしそのままの体制で固まった。
「んなっ…」
私の背後には人ではないものがいた。見たことも無い、生き物だ。
グロテスクな身体を持つ、中型犬ほどの大きさの、化け物。それは大きな口をあけて、私を睨むように見据えていた。
もしかしなくても、私はターゲット(獲物)にされているのだろうか。
冗談じゃない。夢、であるのなら死にはしないだろうけれど、もしもこれが現実だったら?
こんなところで死んでたまるか。
思わず足元に落ちていた細い小枝を掴んで威嚇するように構える。けれど私の手も足もみっともなく震えていた。
だって私はただの大学生で、一般人で、武術の心得があるわけでもなんでもなけりゃ、肝が据わっているわけでもないし、神経が図太いわけでもない。
大体こんな小枝なんか威嚇にもならないことはよくわかっていた。
「来ないでよ」
言葉なんて通じないだろうけど。
じりじりと後ろへ下がる私を追いつめるように、化け物は一歩一歩確実に私に近づいてくる。
後ろへ、後ろへ。足元も見ずに後退していた私は、石につまずいて転倒した。
視界がぶれる。
「っ、きゃ」
化け物がその隙を見逃すはずもなく、倒れこんだ私に向かって飛び掛ってきた。
咄嗟に顔を腕で覆い隠す。
かまれたらやっぱり痛いんだろうか。そんなことを頭の隅で考えながらぎゅっと目をつぶって…けれどいつまでたっても予想していた痛みは訪れなかった。