幼い頃に一度だけルックの見る夢を見た。
それはとても悲しく寂しいものだった。それが世界の終焉なのだと聞かされても信じる事などできなかったし、信じたくなかった。でもそれは紛れも無い真実だったのだ。
だから私たちは、それを変えたくて挑んだ。運命に。
あの塔に居る間は、とても穏やかな時間が流れていて、それはまるで夢の中に居るみたいに幸せだった。でもそれじゃ駄目だと思った。だから私たちは夢から出た。
その先に何が待つのか。運命がどちらに味方するのか、私たちは知る由も無く。
ただ思う侭に、願うままに。
道を進んだ。
そうして、私たちは…。
***
意識が薄れ行く中、遺跡の崩れる音だけが耳に届く。
ああ負けたのだと。そんな思いが全身を駆け巡る痛みとともに、脳裏を過ぎった。
お互いを抱くようにして、たちはそこにいた。轟音が響く。遺跡が崩れて、激しい砂埃がたつ。
自分たちを倒した炎の英雄たちは、既に立ち去っていた。残されたのは、たちだけ。
運命に敗北して、この先に待つものは。
死だけであったけれど、は驚くほど穏やかな気持ちだった。
それは大好きな人たちが、すぐ傍に居るせいかもしれない。
「ルック……セラ」
呼びかけても答えが無い事くらい承知している。
二人ともとうに息を引き取っていた。自分より先に、逝ってしまった。
魔力を限界まで駆使し、命を削っていたセラ。そして紋章を無理矢理自分から引き剥がし、魂にまで深い傷を負ったルック。
外傷などほとんどなく、ただ眠るようにして長い生を終えたルックの頬にの瞳から零れ落ちた涙がぽつりと落ちた。
「大好きだよ」
まだ温もりは残っている。抱き締める腕に、確かに二人の温もりはある。
けれどこれもやがて、自分のものとともに失われる事だろう。
はそっと微笑み、静かに瞳を閉じた。
(完)
|