拍手御礼 陽だまり仔猫

「なんでこの人はこんな所で寝てるんだ」
 その日、錐生零は校舎の裏庭で惰眠を貪る吸血一族の始祖を発見した。
 日差しはぽかぽかと暖かく、けれど時折吹く風には冬の冷たさが伺えるそんな日に、何故太陽を苦手とする(はず)の吸血鬼、しかも始祖と呼ばれる彼女がこんなところで昼寝をしているのだろうか。
 膝を折って背を丸め、小さくなってすやすやと寝息を立てる彼女の眉間には薄いながらもくっきりと皺が浮んでいる。太陽を苦手とする本能の無意識の顕れなのか。
 それにしても肌寒いこんな日に、いくら吸血鬼とはいえ長時間…そもそも彼女がいつからここにいるのかは知らないが…昼寝をしていたら風邪くらいは引くだろう。吸血鬼は人よりずっと頑丈に出来てはいるけれど、もしここで放っておいて風邪でも引かれれば月の寮の寮長が恐らくは黙っていない。そして面倒な事になる。 それはぜひとも避けたいことだった。
 出来ればあまり近づきたくはないが、しかし放っておくわけにもいかず零はの傍らにしゃがみこむと無防備な細い肩を揺らした。
「おい」
「……」
 しかし反応はない。続けて二度ほど、声を掛け肩を揺らすがの長い睫が震える事もその下のルビーの瞳が姿を見せる事もなく、溜息を吐いた零は自分の上着を脱ぐと彼女の上にそうっと被せた。
 温もりが残っていたのだろう、首まですっぽりかかった零のブレザーには頬を摺り寄せるようにして身じろぎをし、その様子を眺めていた零は「猫みたいだな」とぽつりともらした。