さくさく、ぽりぽり。
静かな室内にビスケットをかじる小さな音が響く。
音の元凶はで、彼女は今拓麻に貰った有名店のビスケットを幸せそうに顔を綻ばしながら頬張っていた。微笑ましいその様子に窓際で読書(といっても中身が漫画だ)にいそしんでいた拓麻は小さく笑う。
吸血鬼の中で誰よりも年上でありながら全くそうは見えない、まるで子供のようだ。
くすくすと声を漏らした拓麻に、はん?と顔をあげて拓麻を見た。
「おいしい?」
「うん。とっても」
拓麻の問いに満面の笑みとともに素直な答えが帰ってくる。
それはよかった、と本を閉じながら立ち上がりにお茶のお代わりを入れてあげた。
「ありがと」
「どういたしまして。喜んでもらえたならよかったな。前に街に降りたとき買ってきたんだよ」
「街へ降りたの?」
「うん。枢の頼みごとでね」
「いいなぁ。私も街へ降りてみたい」
さく、ともう一枚ビスケットをかじる。ほんのりとした甘さが口の中に広がって、それだけで幸せな気分になる。
もぐもぐと口を動かしていたは拓麻がじっと自分を見詰めている事に気付くと僅かに首を傾げた。
「何?」
じーっとを見つめていた瞳が近づく。
何だ何だと思っているうちに拓麻の綺麗な顔が間近に迫り、頬の横唇のすぐ側に柔らかい何かが触れ一瞬で離れていった。
柔らかい唇の感触…。
思わず頬に手をやったに、悪戯が成功したといった表情で笑う拓麻。
「……何すんの」
「ビスケット、ついてたよ」
ごちそうさま、と笑う拓麻には頬を染めながら砂糖の入っていない紅茶を一口啜った。