カチ、コチと。時を刻む秒針の音が静かな部屋の中に響く。
小さく身じろぐと左腕に何かが辺り、薄く目を開いた。
金色の髪が見える。流れるそれが頬にかかる横顔は、いつものように人好きする笑顔ではなく何か真剣に考えているような。
普段とはまるで別人だ。そんなことを思いながら枕に頬を摺り寄せた。暖かい。
再び眠りの中に引き込まれそうになるの髪を梳きながら、拓麻は静かに訊ねる。
「後悔してないの?」
「後悔? どうして?」
閉じかけていた瞼を持ち上げて上体を起している拓麻を見上げる。
自分を見つめてくる青い瞳を、ああ綺麗だなどと思いながらは右手を持ち上げた。肩まであらわになった白い腕。細い指先が拓麻の頬に触れて、スとなぞる。
その手を掴んで拓麻は指先に軽く口付た。
「枢から君を奪ってしまったから」
の指に軽く噛み付く。ぷつ、と小さな穴が開き紅い鮮血がにじみ出る。たいした痛みを感じたわけでもないが、小さく「痛い」と文句をたれるを拓麻は楽しそうに眺め、伝いおちる血を丁寧に舌で拭って細い指先を開放した。
「なら、後悔するのは私じゃなくて拓麻のほうじゃないの?」
拓麻の手を掴んで引っ張り、お返しとばかりに噛み付いてみせる。傷口からあふれた血を口に含んで飲み干すとそれに合わせて咽喉が動く。
「あぁ、言われてみれば…そうかも。でも僕は後悔なんてしてないかなぁ」
やっと君を手に入れられたんだから。
いつものように穏やかな声音で言って笑う拓麻に、は一瞬目を丸くして、怖い人、と呟くがすぐに満足そうに微笑した。
「私も。それにね、後悔するくらいなら始めからこんなことしないもの」
「それはそうだね」
くすくすと笑いながらは仰向けになる。全身がけだるいのは情事のあとの名残か。それとももうじき朝日が昇る、それを厭うがゆえの本能なのか。
頬に触れていた拓麻の手がスゥと下へ動き、指先がさらけ出されたの首、鎖骨、胸、そうして腹の上をゆっくりとなぞる。こそばゆさには身をよじり拓麻の手に自分の手を重ね指を絡めた。
「ふふ、くすぐったい」
ふ、と笑んで拓麻はの唇に自分のそれを重ね合わせる。
軽くふれ、けれどゆっくりと唇を離そうとした拓麻の頬を両手で挟んでは上目遣いに見つめ、「もっと」とせがむように上唇に噛み付けば、仕方がないなと笑って拓麻は更に深いキスをした。
堕ちるならどこまでも二人、許されぬ罪を犯しこの身を穢そう