「私はね、選ばれなかったの」
そう呟いてハラハラと涙を流す。真白い頬を伝う雫は月明かりを浴びて宝石のように輝く。ルビー色の瞳がふせられて、長い睫が頬に濃い陰影を描く様を美しいと思う。
誰の手も借りず、唯ひとりで涙を流す少女。痛ましいと思うけれど、彼女が思うのは唯ひとりの青年であって自分ではない。
そう判ってはいても、手を差し伸べずには入られない自分を愚かだと思う。
あの人は、私を選んではくれなかった。私では駄目だった。
小さく呟いて肩を震わせるの前にしゃがみこんで、そっと顔にかかった髪を払ってやった。
「僕は君を必要とするよ。見捨てたりなんかしない、君だけを選ぶ」
頬に流れる涙の痕をそっと指でぬぐいさって微笑む拓麻に、はまたはらはらと涙を零す。
頬に添えられた拓麻の手をすがるようには握り締めた。
「ありがと、拓麻。私、あなたを愛せたならよかったのに」
声を詰まらせて鳴咽をもらすの頭を拓麻はそっと抱き込んだ。
(ねえ枢。今ほど君を、憎らしく思った事はないよ)