暗い静かな世界が広がる。頬にあたる暖かなしずくは、誰かの涙。
泣いているのは誰。どうして泣いているの。苦しいの? 悲しいの?
「」
耳朶を振るわせる愛しいあの人の声が涙に歪んで、ああ、泣いているのはあなただったのね。
ごめんなさい、泣かないで。きっと私の声はあなたには届かないのでしょうけれど、あなたがなくと私はとても辛いのよ。胸が痛い。
私はとても身勝手だった。もう生きていることが苦痛でたまらなかったの。
だから終わるの。終わらせるの、全て。
意識が深く混濁していく。
永い永い時を生きた命が終わろうとしていくのを感じそれに私は喜びを覚えまた深い不安と悲しみを抱く。
私が死んだら、皆死んでしまうのかしら。終わる? 全てが。
吸血鬼という種族が一夜にして滅んでしまうのかしら。
もし、そうなってしまったのなら…ごめんなさい。
謝って許されることじゃないのは分かってる。だけど私には謝ることしか出来ないから。(ねぇ、だから。一緒に、逝きましょう? 一人は寂しい)
「…っ」
ああ、まだ泣いているのね。泣かないで、涙を拭いて。あなたの涙は綺麗過ぎて、私には相応しくないの。
はらはら、零れ堕ちる綺麗な雫。
私にはもうあなたの涙をぬぐうことすら出来ないのだから。だって手が動かないの。瞼も持ち上げられない、あなたの顔を見ることも出来ない。
だけど最後に、私は笑うことが出来るかしら。あなたには笑顔を見せたいの。あなたが好きだと言ってくれた笑顔を。
大好きよ。愛しているわ。いつまでも、あなたのことを、私は。
終わりの時が訪れる。
永い命の灯火が僅かな風にかき消され、今。
彼女の生は終わりを告げた。
冷たい頬に手を添えて、物言わぬ躯を掻き抱き親愛なる口づけを