ぼけーっと邸の自室から外を眺めていると、ふいに小さな妖が目の前を駆け抜けていくのを目撃した。
なんだかものすごく切羽詰まったような気がしていたがまあ気にせずにおこう。
あんなもん気にしていたら身が持たない。
そう自分に言いきかせて、俺は再びぼけーっとすることに専念する。
すると再び、今度は違う妖しが何事か叫びながら邸を取り囲む築地塀を突っ切って行った。
「・・・・・・なんだぁ?」
眉間にしわを寄せつつ立ち上がり、その妖が駆けて行った方に視線を走らせた。
するとなにやら大量の妖しがわいわいがやがや言いながら塀の上によじのぼり、何かを待っているではないか。
「・・・・・・」
人の家で何やってんだコイツら、と思いながら傍へよって行ってそーっと覗いてみると、遠くから見なれた姿が歩いてくるのを発見した。
「あ、昌浩」
思わず口に出して呟くと、大量の妖が俺に気付き、口元に手を当てしーっと声を揃える。
その表情といえば真剣そのものだ。
なんだかよくわからんが黙っていよう。
そう決め込んで物の怪と昌浩、それとこの妖の軍団を遠くから眺めてみる。
そうしている間にも、昌浩と物の怪は妖の軍団に近づき、そして真下を通過していくと思われたその次の瞬間。
築地塀の上から大量の妖が全て消え去った。
「へっ」
情けない声を上げる俺の耳に届く、盛大な悲鳴。
「うわ――――――――ッ」
なんだなんだと築地塀の隙間から向うを覗き見ると、妖につぶされた哀れな昌浩の姿が見えた。
その横でどうやら飛びのき無事であったらしい物の怪が明後日の方向を向きながら昌浩に謝っている。
「・・・・・・潰されてら」
つぶされた昌浩は妖を一匹ずつひっぺがしてはぺいっと投げ捨てていた。
「面白ぇなぁ。昌浩、傍からみたら一人でつぶれてわめいてるようにしか見えねぇしな」
明日陰陽寮でからかってやろうなんて思った俺なのであった。
ちなみにこれが毎日行われている一日一潰れなるものだと知るのは、翌日の事。