煌びやかな装飾品を身につけて、どれだけ着飾ったって嬉しくなんか無い。気持ちは沈む一方で、ああ今すぐここから逃げ出してしまいたいと何度思ったことだろう。
扇の陰で顔を隠して、声を立てずに涙を流す。胸が痛い。心が痛い。どうしてこんなにも。
知らない殿方のもとへ嫁ぎたくなんかないのに。私は女だから。姫だから。政治の道具としてしか使い道は無くて。そこに私の意志なんて必要ない。なんて口惜しいんだろう。
おめでとうと、そういって君は笑う。私がどんな思いをしているのかもしらず。そうして君の隣で彼女も笑う。おめでとうと、同じ言葉を繰り返して。
嬉しくなんか無い。おめでたくなんかない。ああけれど、邪魔な人間がいなくなったのだもの。あなたたちにとってはおめでたいのかな? 虚偽の笑顔の下で皮肉って、途端に自分に嫌気が差す。
胸に沸いたそれを振り払うようにして、紅を引いた唇に笑みを浮かべてありがとうと告げれば張り裂けそうに胸が痛む。このまま死んでしまえればいいのに。
君は嬉しそうに笑う。心底嬉しそうに、真っ直ぐな笑顔で私を見送り祝福の言葉を紡ぐ。
ねえ昌浩、そんな君が。
(好きだったよ。ずっと、ずっと昔から)
その一言を言葉にすることも出来ないまま、私は知らぬ人の下へ今日嫁ぐ。
02:言葉にすることも出来ず 少年陰陽師・昌浩
title by 追憶の苑