暖かな日差しが降り注ぐ、放課後の屋上。幸せそうに笑うアスランとアリスを見て、私も笑みをこぼす。ああ、これでよかったんだと。心からそう思う。
 今となってみれば、アスランに抱いていた恋心…初恋も、淡い思い出だ。そう、何を隠そう私はアスランのことが好きだった。といってもアリスとアスランが付き合い始めるずっと前に、その気持ちは薄れてしまっていたけれど。
 アスランとラクスの婚約のことはまだはっきりとはしていないらしい。ただラクスもアスランも、現在それぞれ父親に掛け合っているところのようで、いずれきちんとした結果が出るだろう。
 アリスとアスランの恋、障害は小さくないだろうけど、メディアで騒がれていないだけマシというか。まあ二人とも幸せそうだからいいかな。
 二人に背を向けてそのままごろんと寝転んだ。コンクリートの冷たさが制服を通して伝わってきて、寝心地は少し悪いけれど空の青さと暖かな日差しが心地よくて、さほど気にはならない。
 そのまま目を閉じていると、ぽかぽかと暖かいお日様のせいか眠気に襲われた私はいつの間にか眠ってしまっていたようで、はっと目を覚ましたとき屋上にアスランとアリスの姿はなかった。
「あ、起きた?」
 目をこすりながら起き上がる。隣を見やれば夕日を浴びながらワイシャツ姿のキラが淡く微笑んでいて、肩に軽い重みに気付いて自分の身体を見下ろすと多分キラのだろうブレザーがかけてあった。
「あ、ごめんキラ。ありがとう」
「いいよ。風邪引いたらいけないと思ったから」
 私からブレザーを受け取って羽織る。アリスとアスランはどうやら帰ってしまったらしいのに、キラは私が目覚めるまで待っていてくれたんだろうか。
「起こしてくれたらよかったのに」
「うーん。そうも思ったんだけど、あんまり気持ち良さそうに寝てるからさ。それに僕としては邪魔な二人がいなくなってくれて好都合なんだよね」
「へ?」
 間抜けな声を上げる私にキラがくすくすと笑う。
「アリスとアスランのこと、なんとかなりそうでよかったね」
「あ、そうだね。うん。あのままうまく行ってくれたらいいと思うけど、あとは二人次第ってとこかな」
「ねえ、マアサ。じゃあさ今度は君が幸せになる番だと思わない?」
「はい? 何言ってんの。それを言ったらキラもでしょ。散々なの二人に振り回されてきたんだから」
 婚約のことだけにあらず。それまでも色々振り回されてきた私もキラも、そろそろお互い恋人見つけて幸せになってもいい…はずだ。でもまだ当分はあの二人に振り回されそうな予感がひしひしとするが。
「はは。そうだね。ならさ、僕たち一緒に幸せになろうよ」
 そういってキラが至近距離で笑う。つまり、それは、そういう意味ととってもいいんだろうか。
 ぽかんとアホ面さらして呆ける私に噴出して、キラはいたずらっ子のように笑った。
「僕マアサのこと好きなんだよね。マアサがアスランのこと好きだった頃から、ずっと」
「…知ってたんだ。意地悪だね、キラは」
「うん。ごめんね? 僕割と利己的だから」
「知ってる。何年一緒にいると思ってるの?」
「あはは。そうだね」
 私に返答を促さず笑い声を立てる辺りキラらしいというか。
「うーん。誤解がないように一応言っておくけど、私今はアスランのことなんとも思ってないよ? あ、そりゃ幼馴染だから大切には思ってるけど」
「知ってるよ。じゃなかったらアリスと一緒にいられないんじゃない?」
「確かにねぇ。じゃあ今私に好きな人がいることも知ってた?」
 キラがきょとんと目を丸くする。
「何、僕失恋?」
「そんなこと言ってないよ」
 そのキラの表情が可笑しくて、私は声を立てて笑った。さて、言ってしまおうか。ずっと内に秘めてきた、この想い。
「私もキラのこと好きだよ? 友達としてじゃなくて、一人の男の子として」
「ホント?」
「ホントもホント。嘘言ってどーすんの」
 ぱっとキラの顔が綻んで、次の瞬間ぎゅっと抱きしめられていた。
「わぁ! キラっ?」
 返る声はない。だけど抱きしめる腕の強さにキラの気持ちが伝わってくるようで、私もキラの背中に腕を回すと抱きしめ返した。