よっ、と声を掛けられて振り向いた先にいたのは、中等部から仲の良い男友達のユウキ。相変わらずの長身に整った面差しで、女の子なら思わず顔を赤らめてしまいそうな彼だが、私は綺麗な顔というものに免疫がついてしまっているためかこれっぽっちもときめかない。幼馴染の二人が容姿端麗すぎるせいだ。特にアスラン。色が白くて背が高くて、線が細くて、宝石みたいな瞳に藍色の髪。コレで頭も良いときもんだから非の打ち所がない。ただしちょっぴりヘタレだけど。キラはかっこいい、というより可愛い。本人に言うといじけるけど。茶色の髪の毛はさらさらで、菫色の瞳は澄んでいて綺麗。そんじょそこらの女の子より可愛らしい顔をしているのに、中身が少し黒いところがなんとも痛い。
「や、ユウキ。お久」
「おう。何黄昏てんだよ」
「いや別に黄昏てたわけじゃないよ。ひまだったから日向ぼっこしてただけ」
今は放課後である。他の三人の帰りをまって、校庭の隅でぽかぽかと日向ぼっこをしていたところだった。校庭の隅、といってもあまり人目に付かない穴場なのだ。キラとアスランとアリスと私、四人だけの秘密の場所…だったんだけど。
「今日天気いいもんな」
「そーそー。ユウキも一緒にどう? 日光浴。お日様の光は浴びた方がいいよ」
「あはは。そうだな。じゃあ俺も一緒させてもらおうかな」
「うんうん」
すとんと隣に座り込んだユウキを見上げると、銀色の髪が光を弾いてキラキラしていた。綺麗な髪だなぁ。ついつい手を伸ばして触れてみたくなる。好奇心だ。
「ねえユウキ。髪触らして」
「は? いいけど、突然どうした」
「うん? いや綺麗だな、と思って」
「あはは、ありがと。マアサの髪も綺麗だよ」
「やだなぁ、ユウキ。そういうことは私じゃなくて彼女に言ってあげなさい」
「俺彼女いないんですけど、イヤミ?」
「いえいえ決してそういうわけではなく」
ちょっと意外だった。ユウキならかっこいいからモテるだろうし、彼女の一人や二人いても不思議じゃないのに。そんなことを思いながら銀色の髪に指を通すと、思っていたよりもさらさらしていて柔らかい感触に少し驚いた。銀色って硬質な色合いだから、もう少し硬いかと思っていたけれど。私がユウキの髪をいじっている間、何故かユウキまで私の髪をいじり始めていた。まあいいけど。
「意外と猫ッ毛だね」
「母親譲りだな。でもさぁ、猫ッ毛って絶対早くはげると思わねぇ?」
「ぶっ、ハゲ…! 今から気にしてどーすんの。大丈夫だよ、そんなこと…絶対無いとはいいきれないけど、うん。大丈夫!」
「微妙だなぁ、それ」
「あはは」
じゃあキラもアスランも早く禿げるな。本人たちには絶対言えないけど。
そうしてほのぼのと過ごしているうちに時は過ぎ、約束の時刻になってようやく一人目が現れた。光に透ける茶色の瞳に菫色の瞳。キラだ。
「遅くなってごめん、マアサ」
「大丈夫だよキラ。もう終わったの?」
「うん。アスランとアリスももうすぐ来るよ……誰?」
私の隣で寛ぐユウキに視線を向けて首を傾げる。相変わらずユウキは私の髪をいじり続けていた。そろそろ離してもらわないとキラの不機嫌メーターが上がっていくのが目に見えて分かったので、ぺしっと手を叩き落とす。痛いよ、というユウキの文句が聞こえてきたがそこはさらりと聞き流した。
「初めまして。キラ・ヤマト君…だよな? 俺はユウキ・アヴァネール。よろしく」
「ユウキ、ね。よろしく。覚えとくよ。僕の名前、知ってるみたいだけど一応名乗っておくね。キラだよ。キラ・ヤマト」
「キラ、ユウキはね中学の頃クラスが一緒だったんだよ。ほら一回だけクラス離れちゃったことあるでしょ? あの時一緒だったの」
「ふーん。そう」
なんだろうこのそっけない返事。興味ないとでも言いたげな。
「一応いっておくけど、僕のマアサだから。手、出さないでね?」
笑顔でぶっちゃけられた一言に思わず目が点。いつ、誰が、誰のものになったのキラ。聞いてないよ、私。私キラの所有物? いつから?
「ああ、君のマアサだったんだ。悪いね、知らなかったからもんだからさ」
笑顔で返すユウキだが、その笑顔がいつもの爽やかな笑顔じゃない。もしかしてキラの黒さに中てられた? 空気がいつもより冷たい気がしてならない。さっきまでぽかぽかと暖かかった太陽は、日差しは何処に?
「あのさ、二人とも。笑顔で威嚇しあうの、やめない? 怖いから」
「やだな、マアサ。威嚇なんてしてないよ、挨拶してるだけ」
「そうだよ。やっぱり友達になるなら、挨拶くらい必要だろ?」
「うん。そうだね、友達ね。君たちが本当に友達になれるとは、ちょっと私は思わないんだけど」
二人から視線をそらしてボソリと呟いた後半部分は、幸いにも二人に聞き取られることはなく。
それからアリスとアスランの二人がやってくるまでの間、私はこの二人がかもし出す微妙な空気を耐えなくてはならないのだった。
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