原因はなんだか知らないけれど喧嘩をしたらしい。らしい、というのは実際に聞いたわけではなく傍から見て二人の様子が可笑しいことから推測しただけなので、本当のところはわからない。でもあながち間違ってはいないと思う。なぜなら毎朝一緒に登校して授業中以外の休み時間も下校も一緒というラブラブっぷりを見せ付けてくれていた二人が、ここ最近ずっと別行動を取っているからだ。登校も別、休み時間もバラバラ、お昼は私とキラの手前一緒に食べているけれど隣り合って座ることはないし、目も合わさなければ会話も無い。非常に気まずい空気が流れているのだ。そのときばかりは私もキラも顔を見合わせて思わず首をかしげた。一体何をやらかしたんだ。
二人に話を聞こうにも、いざとなると何故か二人ともつかまらない。朝はギリギリに登校してくるし、休み時間はどっかへ逃げられるし、昼休みはアレだ。話を聞こうにも聞けない。放課後は、委員会で忙しい。で、結局話を聞けずそろそろ一週間が経過する。
喧嘩するのは結構だ。喧嘩するほど仲が良いとも言うし、むしろ全く喧嘩をしないことの方が問題はあると思うけれど、周りを巻き込むのは勘弁してほしい。それがたとえ幼馴染という間柄であったのだとしても、空気を悪くさせるのだけは止めて欲しいのだ。
イライライライラ。
そんな私の様子に気付いたキラが、今日の昼食にアリスとアスランの同席は遠慮してもらって、私達にしては珍しく学食で二人向かい合って席についていた。
「何したんだろうね、あの二人」
「もう一週間になるね。ホント、何やったんだか」
「どっちが原因だと思う?」
「んー。アスランじゃない? ほら、アスランて天然なとこあるから。気付かずアリスを怒らせるようなこと言ったとか」
「ありえるけど…どうかな。アリスも割りと天然でしょ。あの子も気付かずなんかやらかしてそう」
「あー…それも、そうだね」
二人で額をつき合わせて考え込むも、結局私たちは第三者であって現場に居合わせたわけではないから答えが見つかるはずも無い。
イラ付く気持ちを抑えるようにパスタに突っ込んだフォークをひたすらくるくる回していると、見かねたキラに止められた。
ご飯を美味しく食べるためにもいったん二人のことは置いといて。食事の手を再開した私は、ふと聞き覚えのある声が近づいてくるのを聞きとめた。
「やな予感」
水を口に運びながら呟いた予感は的中する。
二つの聞きなれた声が聞こえてきたな、と二人揃って学食の入り口を見やれば、ここ数日口を利いていなかったはずの二人が何か言いあいながらこちらへ向かってくるところだった。
今は二人の顔を見たくないから、わざわざ二人に断って学食でお昼を取ることにしたのに、これじゃ意味が無い。
じとっと目を眇めた私と、あーあと言わんばかりのキラに気付かず、トレーを持った二人はなおも言い合いながら私とキラの隣にそれぞれ立った。
「何、何の用?」
「マアサ、聞いてよアスランたらね!」
「キラ、聞いてくれよ」
「うるさよ、二人とも」
キラに静かに制されて意気込んでいた二人はうっと黙り込む。所在なさ気な二人を一瞥して座るよう示せば、アスランとアリスはそれぞれ腰を降ろした。
「で?」
「…マアサ、怒ってる?」
「そう見えるんならそうなんじゃない? 原因くらい分かってんでしょ?」
「…うん」
「喧嘩するのは結構だよ。でもね、私やキラまで巻き込まないで欲しいわけ。分かるでしょ?」
ご飯を美味しく食べたくても空気が悪けりゃ美味しく味わえるわけもない。楽しいはずの休み時間は二人に気遣って、楽しさ半減。私も割りと自分勝手なことを言ってる自覚はあるけど、間違ったことは言っていない。
「すまなかった、マアサ」
「いいけどね。もう二度と同じことしないなら」
「うん。努力する」
「そうして。で、結局二人の喧嘩の原因は何だったわけ?」
アスランとアリスは一度顔を見合わせて、それからそれぞれ話し始めた。
話を聞いた私とキラはあんぐりとあいた口がふさがらなくなった。つまり呆れた。それくらい、二人の喧嘩の原因は下らないものだったのだ。
結局のところは、お互いがお互いを好きすぎたが故の喧嘩だったというわけだ。
本当にはた迷惑な二人である。
二人がお互いを好きなのは、傍から見ていれば良くわかる。それこそ疑う余地もないほどに。
一歩引いて見たら簡単なことだ。まソレが出来ないのが、恋愛というヤツなのだろうけど。
|