傍から見ていて両思いなのはわかりきっていた。だけど二人ともどこか押しが弱くて、一歩引いてしまうところがある。見ていてたまらなくじれったくなるから、おせっかいとは思いながらも私とキラと思わず手を出してしまったのだ。
 本当は成り行きに任せるつもりだったんだけど、あの二人じゃ絶対にいつまで経っても進展なんてすることがない、というのもわかりきっていたことだから。

 きっかけは些細なことだった。
 それまでは気にも留めなかったような、ささやかなこと。手を繋いでも、肩を並べていても今までだったら普通にしていられたようなことが、普通ではなくなった。そのときからもう、二人の間で互いが特別、であることは始まっていたのかもしれない。
 手が触れ合えば、慌てたように互いに手を引く。肩を並べて座れば、どことなく緊張してお互いうっすら頬を紅くしている。よく見ていなければ気付かない些細なことも、それなりにある。  付き合いが長い分、互いの変化には敏感で。私とキラは、とアスランの様子が可笑しいことにはわりとすぐに気がついた。

 放課後、だったと思う。いや昼休みだったか。どっちにしても周りに人がいなかったから、多分放課後。生徒会室でキラにその話を持ちかけられたのは。
「ねぇ、
「何? ちょっとまって、ここ書いちゃうから」
「うん」
 手元の書類の必要事項を書きいれながら話しかけてきたキラに片手を挙げる。待っている間、キラは暇そうに私の手元を覗き込んでいた。必要な部分全てを書き入れたことを確認して顔を上げる。
「…よし。えと、何?」
とアスランのことなんだけどさ」
「あー…」
 キラの言いたいことはすぐ想像がついた。書類の束を集めて机の端におしやり、キラと同じように頬杖を付いて頷く。机の上に散らばったキャンディーを一つ適当に掴んで包みを開いた。
「うん。キラが言いたいことは想像がつくよ」
「あ、やっぱり? なんていうのかなぁ、あの二人さ…じれったい? よね」
「そーだねぇ。じれったいよねぇ」
 キャンディーを口の中に放り込む。舌の上で転がしじわりと広がった味は爽やかなレモン味だった。
 全くじれったい。確かにそのとおりだ。
 好きなら好きでぱぱっと告白なりなんなりしてくついちゃえばいいのになんて私やキラ、周りの人間は簡単に思うわけだけど、本人たちからしてみたら難しいだろうな。
 互いに額がくっつかんばかりに顔を寄せてこそこそ話をする私とキラ。多分傍目から見たらもうすぐキスでもするんじゃないかって程顔が近い。前髪が触れ合って、互いの吐息が頬に掛かる。誰かに背中を押されたらそれこそアウトだ。だけどここまで顔を寄せても私たちは顔があかくなるどころか大して意識もしない。それはそれで問題なんだろうか。
今キスしたらファーストキスはレモンの味、になるんだろうけど、生憎キスする予定もなけりゃキラのファーストキスが済みなのかどうなのか、私は知らない。
 話が逸れたけどたとえばこれがとアスランだったら、顔を真っ赤にした挙句どちらかが失神する、などという事態になりえるわけだ。
「でさ、僕考えたんだけど早いとこ二人くっつけちゃわない?」
 キラの一言に思わず目を丸くした。それはまた随分と突然だ。
「随分突然だね」
「そうでもないよ。ずっと思ってたし」
 そりゃ私も早く二人がくっついてしまわないか、と思ったことが無いわけではないけど、こういうのは他人がどうこうするものでもないような気がする。いくら幼馴染とはいえ、おせっかいが過ぎるというか、なんとういうか。まあたとえ私たちが動いたところで、あの二人は怒らないだろうけれど。
 しかしキラは、躊躇う私に構いもせずにどんどん話を先に進めていく。
「僕アスラン呼んでどついてくるから、呼んで来て。多分まだ校内にいると思うからさ」
「え、ちょっとまってキラ。私まだやるって言ってないよ」
「やらないの?」
 そんな心底意外と言う瞳を向けられても…。
「いや、そりゃ私だって二人がくっついたらいいかなと思ったことがないわけじゃないよ。だけどさ、これって他人がどうこうするもんじゃないじゃない?」
「うーん。僕も一度はそう思ったけど」
 一度だけなんだ。そう思ったにも関わらず、強硬手段に出ると決めたわけなんだね、キラは。 「最初はさ、微笑ましいなぁなんて二人を見てて思ったりもしたんだけど。でも本当にそれ最初だけでさ、しばらくしてきたらなんかだんだんイライラしてきたんだよね」
「あー…分かる気がする」
 キラの言いたいことも良くわかって、思わず頷いてしまった。手が触れ合ったり目が合ったりするだけでお互い紅くなって目を逸らしたり慌てたりする。それだけでお互い意識してること丸分かりなんだから、はっきりしろよといいたくなる気持ちも実はよくわかる。大体見ているこちらがむずがゆい。非常にむず痒いのだ。
「でしょ? ね、だからさ、
「わかった。協力する。じゃあアスランのこと頼んだよ」
「うん。そっちもね」
「OK。場所は?」
「ここでいいんじゃない?」
 適当だなと思ったがとりあえず頷いて、私は携帯電話を片手に生徒会室を出た。
 その後は言うまでも無い。私とキラによって呼び出されたとアスランが生徒会室でばったり出くわし(偶然ではない)キラによって散々言いくるめられたアスランがに告白し、無事二人は恋人同士となったのだった。