夕暮れに染まる教室で、部活に励む運動部の声をBGMに帰り支度をしながら窓の外へ視線をやると見知った姿が二つ、仲良く寄り添って校門に向かっていくのが見えた。
この学園の生徒会会長と書記にして、私の三人の幼馴染のうちの二人。アスラン・ザラと・だ。
手を繋いで歩幅をあわせて歩く見目のよい二人は、遠目から見てもとてもお似合いで。それこそ絵に描いたような美男美女カップル。
(いい感じだよなぁ)
などとつい、帰り支度の手を止めて二人の後姿をじーっと目で追っていると、ふいに教室の扉が開いた。
「あ、。まだ帰ってなかったんだ」
菫色の瞳を丸くして、扉に手をかけたままそう言ったのはもう一人の幼馴染、キラ・ヤマト。
扉からを手を離してこちらへ歩いてくるキラに「キラこそ」とそう返すと、彼は肩をすくめて「僕は日直」と答え手に持った鍵をちらつかせた。
ああ、なるほど。
「本当はも一緒だったんだけどさ。アスランと待ち合わせしてるっていうから」
「そっか。優しいなぁ、キラは」
「んー、そうでもないよ。次の日直のときはにやってもらう約束したからね」
「あはは。ちゃっかりしてる」
でもキラらしい。思ったままを口にすると、キラはそうかなと幼さの滲む動作で首をかしげた。サラサラと揺れる茶色の髪を目の端に止めて、綺麗だなぁなんて思いながら帰り支度の手を再開させる。忘れ物はないか確認してから、キラを手伝って窓の鍵を閉めた。私が鍵を閉めている様子を何も言わずに黙って眺めているキラに首を傾げると、キラは笑顔を見せてなんでもないと首を振った。
私とキラと、アスランとの四人は幼稚舎からずっと一緒の所謂幼馴染というやつだ。もう十年以上の付き合いになるから、友達というよりは兄弟の感覚に近い。気心も知れていて、他人に対して使うような気遣いをする必要がないから一緒にいてとても楽だ。
気がつけばいつも一緒にいて、それが当たり前になっていた。
だけどアスランとが付き合い始めてからは、以前よりは四人一緒につるんでいることが少なくなったように思う。周りの友達と比べれば実際は一緒にいる時間は長いんだろうけど、前と比べてということだ。とアスランが何時も一緒にいて、あまった私とキラが一緒にいる。そんな感じ。もともと私とキラは仲がよかったから別にそれはそれで構わないけど、ちょっとだけ寂しいかな。
「キラはもう帰る支度すんだの?」
「うん。あと鍵締めて帰るだけ」
「そっか。待たせちゃってごめんね」
「大丈夫だよ。…そういえば、さっき何見てたの?」
「さっき?」
「うん。窓の外、なんか熱心に見てたでしょ?」
「あぁ、見てたんだ」
見てたならすぐに声かけてくれたらいいのに。
私の心のうちを呼んだかのように、キラはまたにこりと笑って窓の外に目を向けた。ほんの少し、どこか遠くを見るような瞳。
キラは時々、本当に時々だけどこうやって遠くを見るような視線をするときがある。キラが何を考えて…思ってこんな表情をするのかなんてわからないけど、私はこのときのキラの表情が好きだ。見知ってきた彼が一瞬だけ知らない人に見える、大人びた表情。
皆こうやって少しずつ変わっていくんだろうか。あたりまえのことだけど、やっぱりそれは少し寂しい。出来れば今までと同じように、なんて無理なのかな。
「アスランとがね、一緒に歩いてて…あ、まだいる。仲良いなって思ってみてたんだよ。すっかり恋人同士だよね」
あぁ、と納得したようにキラは頷いて、菫色の瞳を私に向けた。
「あの二人か。そうだね、最近大分自然に付き合えるようになってきたみたいだね」
「うん。付き合いだした当初なんてすごいぎこちなかったからね」
私はキラから目を逸らし、もう一度まだ校門付近にいるアスランとに視線を向けた。ふと、二人から少し離れた場所で固まる女子生徒数人を発見する。多分、アスランを見ているんだろう。またかと少しうんざりして溜息をついた。
「どうしたの?」
「あれ」
「ん? ああ、アスランのファンの子?」
「んー、かなぁ。なんでだろうね、なんでみんなあの二人…ていうかアスランだけど、アスランに近づこうとするのかな」
「やっぱり見た目が良いからじゃない?」
「それを君が言うか」
学内でも人気の高いアスランは隙あらば近づこうとする女の子が絶えない。顔も中身もよく家柄もかなりいいから。キラも同じ位人気はあるけど、彼の場合笑顔一つで人を近づけることも遠ざけることが出来るから不思議だ。そういう面でキラは人付き合いが上手い…というか世渡り上手なところがある。アスランはキラと違って不器用な人。手先は器用だけど中身は超が付くほど不器用。アスランをよく知らない人は彼をクールで無口でかっこいいと評価するけど実際はそうじゃなくて、ただ人と接することが実はあまり得意ではないだけ。かっこいい、というところは否定しないけど。
うわべだけ見て近づいて、実際中身を知って理想とは違っていたからと幻滅されたりするとやっぱり面白くない。だったら初めから近づいて欲しくはない。そう思う私は自分勝手なんだろうか。幼馴染ゆえの独占欲も、あるいはあるのだろうけど。
「あー近づいてったよ、あの子達。勇気あるね、恋人がすぐ隣にいるのに」
「人事みたいに言ってるけど…いいの、手助けしなくて」
「んー、大丈夫じゃないかな。多分」
「多分、て…」
アスランに近づいてった女子数人は、ちらっとを見るがその存在はないものとしているようで、強引にアスランに何かを手渡そうとしていた。遠目にはよく見えないけど、多分手紙のようなもの。ラブレター? 古典的だな。アスランは困惑気味な表情を見せて断ろうとするが、女子の迫力に負けたか結局受け取ってしまっていた。
「あーあ、受け取っちゃったよ」
「受け取っちゃったね」
「どうするのかな」
「いっそ破いて捨てたらいいよ」
「、流石にそれは酷いんじゃないかと思うんだけど」
「そう?」
まあ確かにソレはやりすぎかもしれないけど、あの女子も強引過ぎると思う。相手の都合も考えず、手紙を押し付けるだけ押し付けて走り去っていってしまったし。
「困ってるね、アスラン」
「もね」
「そりゃ困るよねぇ。困るくらいなら受け取らなきゃいいのに」
「断れないところがアスランなんだろうけどね」
「そうだね」
校門付近で立ち止まったまま顔を見合わせて困惑する幼馴染二人を眺めて、私とキラは苦笑した。ポケットから携帯電話を取り出す。
「からかいついでに助けてあげようか」
「そうね、そうしよう」
キラの提案に名案だと頷いて、携帯にのナンバーを呼び出した。
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