寒さの中の暖かさ

前略、我が師匠レックナート様へ。
お元気ですか?私は今、ルックと共に……

洞窟の中で凍えながら吹雪が止むのを待ってます。








「寒…死にそう…………」
洞窟の奥のほうで、私はガチガチ震えていた。
ルックはというと、いつもの涼しげな顔で持ってきていた本なんか読んでたりして、余裕ぶっこいていたりする。
ああぁ、憎たらしいッ。
周りに他の人は居ない。
よくある(?)『モンスターから逃げた時に逸れちゃったー』てやつだ。
モンスターはしつこくて、私たちをとことん追いかけてきた。
やっと振り切ったかと思えば、みんなの姿はなくて。
皆を捜してる間に雪が降り出し、仕舞いには吹雪になった。
そして仕方なく近くの洞窟に避難することにしたのだ。
「…あんた、寒くないの?」
「別に」
本のページを捲りながら、サラリと返す。
くううぅぅっ。嫌なヤツぅ!!
「寒いー寒いー寒いよーぅ」
「煩いよ。
大体ね、そんなに寒い寒い言ってたら、もっと寒くなるんじゃないの?」
「うっ…」
た、確かに…。
私はルックの言葉も一理あると考えて、寒いと口にするのをやめた。
けれど寒いのは変わらなくて。
「はあぁ…たち、早く来ないかしら……」
そう言いながら吐き出される私の息は真っ白だ。
「奴らだって、僕たちのように吹雪が止むのを待ってるんだと思うよ。
それか、瞬きの手鏡で城に戻っているか」
うわ、薄情!
でもも一緒だし、ないとも言えないわね……。
「うううぅ……こんな時に限って魔力を酷く消耗してるんだからなあ…」
酷く疲れてて、ルックも私も、魔力は殆どあまってなかった。
だから転移魔法を使うなんてことも出来ない。
「魔力吸いの紋章でも宿しておけば良かったかも。
そしたらそこら辺のモンスターを殴打して、魔力を少しでも回復できるのに」
「馬鹿だね。こんな天気にモンスターが外に出てるわけないじゃないか」
「判らないわよ〜。もしかしたらこの洞窟に居たりして」
「……洒落にならないこと言うなよね…」
ルックはふぅ、と呆れている。
確かに今ここでモンスターに襲われたら…間違いなく死ぬ。
ルックは私より防御力が低いし―その代わり私より魔力と魔法防御力が高いのだけど―、私も今は体力が殆どない。
ルックに呆れられたらいつもは彼を睨むかなんかするところだけど、今はそいつの言う通りなので、私も溜息をついた。
「はぁ、魔導師2人きりってホントに危険だわ〜」
こんなことなら誰かと一緒に身体鍛えておくんだった。
ワカバとロンチャンチャンのとこはハードそうだから、カスミたち辺りと…。
て、今頃そんなこと考えても仕方ないか。
後悔先に立たずって…こういうことなのかしら。
「…僕ら、魔導師ってだけじゃないんだけど」
「ん?何か言った??」
ボソリとルックが何かを言った。
あまりにも小さくて良く聞こえなかったけれど。
「別に、何も言ってないよ」
「どうせ悪口の類でしょ」
「だから何も言ってないって」
「ふうん。じゃあもういいわよ」
これ以上聞いても、ルックは絶対口を割らない。
はぐらかされるに決まってる。
それにわざわざ悪口なんか聞きたくないものね。
「んん〜、何か使えそうなもの持って居なかったかな?」
ポケットやバッグの中を、漁って見たりする。
けれど私が持っているのは、お菓子とかお薬とかばかり。
つ、使えない……。
落ち込む私の後ろから、ボッ、という音がした。
それは、そう。発火の音。
振り向いた私の目の前で、ルックが火炎の矢の札を燃やしていた。
「あ、あぁ!何で!!!」
「…に持たされていたんだよ」
ああ、そうか。
ルックは紋章以外使えないから、道具係として色々持たされていたのよね。
「ふ〜、温かい……」
そこら辺にあった薪を集めて、火をそれに移す。
パチパチと燃える炎。
うーん、それを見てると……
「…何だか、眠くなってきたな」
「ちょっ。何、人に凭れ掛かってきてるのさ」
「ちょっと位いいでしょう。吹雪が止んだら起こしてね」
「……………」
ルックの顔が赤かったのは、この暗い中で灯を灯していたせいだろうか?
そんなことを考えながら、私は目を閉じた。





自分の肩の所で寝息を立てる少女を見ながら、ルックは彼女に声を掛ける。
「全く、どうして君はそうも鈍いんだろうね」
自分達は魔導師なだけではなく、男と女だというのに。
「もし僕が変な気を起こしても、文句は言えないよ」
ふ…と、苦笑が漏れる。
いつになく無防備な彼女。
これはきっと、自分が男として見られていないからだろう。
それはそれで虚しくはあるのだが、こんな顔が見られる男は、自分くらいだ。
きっとある種の信用があるのだろう。
それを思うと、少し嬉しくて。優越感、というものだろうか。
ルックはくすりと笑うと、読み掛けの本を開き、読書を再開した。




吹雪が止むのは、その数十分後。
それからたちが助けに来た時も、ルックはを起こさずに肩に凭れさせたまま、黙々と本を読んでいたとか。