形あるものはいつか壊れる。
では形の無い物は?
いつか壊れてしまうのだろうか。
曖昧な関係。一言で言い表すとすれば、それが一番正しい気がする。
「ねえ。どうしたいの?」
彼を見あげたまま、私は静かに問い掛ける。その問いに答えるように口付けが降ってきて、目を閉じた。
軽く触れるだけのキスからそれは段々と深いものへと変わる。
薄暗い部屋の中、響くのは二人の鼓動と微かな水音。
彼の唇が首筋に移った時、私はそっと目を開けた。
付き合わない? そう問われたから、いいよと頷いた。
本気だったのかどうか、今でも分からない。その場のノリのようなそんな感じもしたし、そうではなかったような気もする。
二人きりの時も、身体を重ねるときも、彼は私を可愛い綺麗だと言ってくれるけれど、好きだとは一言も言ってくれなかった。
そう考えてみると、私も彼に好きだと告げた事はなかったかもしれない。
否、私は本当に彼を好きなのか自分自身判断つきかねていた。
嫌いでないことは確かだけれど。
好きか嫌いかと問われれば、好きだと私は答えるだろう。
ただそれは……恋愛感情での、好きなのだろうか。
「何、考えてるの?」
考えに耽っていたら何時のかにかが私の顔を真上から見詰めていた。
紫暗色の瞳と目が合って、さりげなく逸らす。
額にかかった私の前髪をが優しく梳いた。
「何だと思う?」
くすぐったくて目を細めた私の瞼にが軽く口付けをする。
「分からないからきいてるんだけどな」
苦笑、という表現に似ているようで違う微笑みを浮かべて彼が言った。
ああ本当にこの人は、微笑みを浮かべていてもその実目が笑っていなくて。何を考えているのか分からないのは彼の方だといつも思う。
くすくすと笑みを零し、彼の首筋に腕を巻きつけた。
「」
「ん?」
「名前、呼んで?」
「」
耳元で囁かれる何時もと違った少し低い、熱のこもった声に背筋がざわつく。
息を詰めた私にカイルは優しく微笑んだ。
「可愛いよ。」
今の関係に、私はそれなりに満足している。
近すぎず遠すぎず。その距離が心地よいのだ。
けれどふと思う。
私たちの関係はそれ故に非常に不確かで曖昧なものだ。形あるものが、いつか壊れるというならば形の無い物は?
私と彼の関係のように、形の在るようでないもの。それもいつか壊れてしまうのだろうか。
その時の事を考えて、私は一抹の恐怖と不安を抱くのだ。