きらきら光る星空の下。
大好きな人と一緒に。
「熱い」
ぼそっと呟いた私の言葉に、まず反応したのが長い付き合いのルック。
「は?」
思いっきり眉間に皺を寄せて、ものすごく不審そう。ルックの表情からうかがい知れる心中は「何言ってんだ、この寒いのに」ってところか。
私はすこしむっとして、唇を尖らせると自分の服の襟首をひっぱった。
「熱いんだもん。悪い?」
悪いと言い返されたらどうしよう。なんてことは考えてない。むしろルックなら絶対そう返すと私は確信している。
「悪いよ」
ほら、ね。
嬉しくない予想の的中に、半ば苦笑いをしながらテーブルの上におかれたグラスに手を伸ばした。
カランと解けて小さくなった氷がグラスの中で音を立てた。
ぐいっとあおる。コン、と氷のみになったグラスをテーブルに戻せば。
「って、ちょっと。さっきから何飲んでるのかと思えば、それアルコールじゃないっ?」
あわてたような、焦ったようなルックの声。
ん?
あれ。おかしい。さっきまでルックの声すぐ近くに聞こえてたのに。
すごく遠くに聞こえる。
ルック私の隣に座ってるはずだよね?
そう思って隣を振り向いた途端。ぐるん、と視界が回った。
「へ…?」
一瞬天井と。慌ててるようなルックの顔が見えて、暗転。
きゃーとか。わー、とか。
誰かが叫んでるような気もしたけど。
真っ暗な場所に意識があって。
だけどふわふわと空を飛ぶような感覚。
一定感覚のリズムが心地よくて、夢の世界に浸りながら次第にはっきりしてきた意識の中。お酒を飲んだせいで少し重くなった瞼を持ち上げた。
「ん。あれ?」
気がつけばどうやら誰かに負ぶわれていたようで。
すぐ傍に見えた、茶色い髪。さらさらと揺れるやわらかい猫っ毛が頬に当たってくすぐったい。
暖かい人の温もりが気持ちよくて、負ぶってくれている人の肩に火照った頬を摺り寄せた。
「目が覚めたの?」
「あー、ルックの声だぁ」
ぎゅっとしがみつく腕に力を込めれば「苦しい」と返された。
「もうへいきだよ。下ろしてルック。重いでしょ?」
「うん」
ちょっとまて。そこは大丈夫だよ、とか返すもんでしょ。
でもルックにそれを望んでも無理なことは分かってるから特に文句は言わない。
地面に下ろしてもらって、足をつけてしっかり立って。
正面に立つルックを少しだけにらんでみたけど。
「まったく。アルコール駄目なくせに」
明らかにもうこんなことは止してくれと言わんばかりのルックの表情。
あ、ため息。
きっとルックのため息が多いのは私のせいなんだろうな。
けらけら笑いながらごめんねって謝ったら全くだよって返された。
改めて回りを見渡してみたら、どうやらここは酒場から出たすぐのところにある広場のようだった。
夜空を仰げば満天の星空。手が届きそう。
アルコールが効いてるせいで火照った頬に、冷たい風が気持ちいい。
でももっと冷たいものが欲しいかな。
「ルック、ルック。手、貸して?」
「何で」
「いいからー」
ニコニコ笑いながら無理やりルックの手をつかみ取る。
予想通り。ルックの手はとっても冷たかった。
「ルックの手、冷たくて気持ちいい」
「そういうの手は熱いよね。普段は冷たいけど」
「うん? お酒飲んだからかなぁ」
「そうじゃない?」
そういってルックは私が握っていた手とは逆の手を持ち上げて、私の頬に触れた。
ひやり、とつめたい感触。でも気持ちいい。
「熱いね」
私の顔を触ったルックの言葉。
「うん。ね、ルック」
「何?」
「キスして?」
ねだる様に首を傾げていったら、思い切り眉を寄せられた。
私はそんなルックにお構いなしに、せがむ。
「いいじゃん。誰も見てないし」
「……はぁ。仕方ないね」
そういってため息を一つついて。
ルックが顔を近づけた。
ルックの綺麗な顔と距離が縮まる。あとチョットで唇が触れるというところで、ルックがその至近距離で私をにらむ。
「目くらい閉じれば?」
「あ。ワスレテタ」
にへらと笑って仕切りなおしとばかりに目を閉じる。
ちゅっと軽い音を立てて交わした口付け。
それはいつもと少し違う味がした。
「お酒くさ…」
「うっさいな」
上目遣いに見上げて口の端を軽く持ち上げ。
きらきら輝く星空の下。
私たちは二度目のキスをした。