「ルックー」
「…」
「ルックってばー」
「…」
「るーっくー」
「…」
「……」
構って欲しくても構ってもらえず。
散々喚いても相手にされずに、半ばムキになって後ろからぎゅーっと抱きつくことしばし。
初めは黙って我慢していたらしいルックが、ややあって深い溜息とともに振り向いた。
さらさらと柔らかいルックの髪の毛が私の頬にあたる。
「あのさ」
「…」
「重いんだけど」
それはもっともだと思います。はい。
半眼で言われた言葉に私は口にしないまでも、心の中で同意した。
でもだからといって離してやる私じゃない。
ルックの首筋にしがみつく力をさらに込める。
「」
「…」
名前を呼ばれても無視。無視無視無視。
聞こえませんという顔をしてぷいっとそっぽを向いたら、突然ルックが立ち上がって私は咄嗟に対応できなくてバランスを崩した。
ちなみに座っていた場所はルックの部屋のベッドの上だったもので。そのままぽてっと仰向けに倒れこむ。
「っわ」
「いい加減にしなよ、」
怒ってる。あーあ。怒らせちゃった。
自分のしたことを他人事のように思いながら寝転んだ体勢のままルックを見上げていた。
「だってルックが構ってくれないんだもん」
むっと唇を尖らせて、膝を抱え込むように横を向く。
私の態度に呆れたのか、あきらめたのか。
再び溜息を吐いたルックはさっきまで呼んでいた分厚い魔道書をぱたんと閉じると、ベッドの端に座りなおした。
「じゃあ聞くけど。は一体僕に何して欲しいわけ?」
「構って欲しい」
もごもごと布団に顔を突っ伏して言うとルックがはぁ? と声を上げた。
それは聞こえなかったわけじゃなくて、私の言った言葉に対してなのだと思う。
ちらっと横目でルックを見ると、あのねぇ、と言いながらルックは額を押さえた。
「だって久しぶりのお休みなのにルックずっと本読んでばっかりじゃん。少しくらい構ってくれたっていいじゃん」
「久しぶりの休みだからゆっくり過ごしたいんだけど?」
それはそのとおりかもしれない。
でもたまの休みに好きな人とゆっくり過ごして、そんでもって構ってもらいたいって思うのはいけないこと?
それって私のわがままなのかな。
そりゃ確かにルックがあんまり人と馴れ合うことが好きじゃないって知ってる。
たとえば相思相愛同士であっても、ベタベタ四六時中引っ付いてるのも嫌いだってことも知ってる。私だっていくら好きな人とはいえ、始終べったりだったらウザったいと思うしね?
だけど久しぶりのお休みで、一緒にすごそうと思って部屋を訪れた恋人を見るなり「何しに来たの?」って開口一番にそれはないでしょ。
明らかに邪魔なんですけどオーラ放つこと無いでしょ!?
そういうルックの態度にはある程度慣れている私でも、あんまりそっけない態度ばっかりとられるとやっぱり寂しくなると言うもので。
…考えてたらほんとに悲しくなってきた。
はぁと息を吐く。
「わかった。じゃあいい」
鼻の奥がツンとしたのも気付かぬふりをして、ルックに顔を見られないよう立ち上がった。
「ばいばい。邪魔して悪かったね」
ひらひら手を振って、部屋を出て行こうとする私をルックが呼び止める。
「」
「何よ。邪魔なんでしょ? 出てってやるんだから感謝しなさいよ。大好きな本とゆっくりすごしたら?」
ぜったい振り向いてやんない。もう知らない。ルックなんて勝手にすればいいんだ。
断固として振り向かない私。扉と向かい合うような形で足を止めたまま。
部屋を出て行くと断言したものの。それでも出て行きたくないのも事実。
後ろから呆れたような盛大なルックの溜息。それと同時にベッドのスプリングがきしむ音が聞こえた。
「何意地張ってるんだよ」
「意地なんて張ってない」
なんだか知らないけどボロボロとあふれ出てた涙をぬぐうにもぬぐえず。
どうしたものかと焦る私の頭にルックの手が触れる。
そのまま肩をひかれて後ろへ振り向かされるとほっぺたをぐにっとつかまれた。
「バカだろ?」
「どうせバカですよ」
「あぁ、一応自覚してるんだ?」
「さり気にひどくない?」
「さあ?」
あぁ酷い顔だね、と私の顔を乱暴にぬぐうルック。もうちょっと優しくしてもいいのにと思うのは私だけなのだろうか。
むすっとふくれっつらをしたまま。
ルックを見上げているとぽんと頭を叩かれた。
「しょうがないね。今日はに付き合ってあげるよ」
「どういう風の吹き回し?」
「散々構って欲しいって喚いといて言うことそれかい? こういうときは素直にありがとうっていうべきじゃないの?」
「う…ありがとう」
「……で?」
「へ?」
「何して欲しいわけ? 何かあるならはっきり言えば?」
しばし逡巡した後。
さっきまで座っていたベッドの方に近づいて、ベッドサイドに座る。
ルックを見つめたまま、無言で両腕を前に突き出した。
突然何をするだと訝しげな顔をするルック。無理も無い。
その体勢のまま黙りこくる私。だんだん私のしたいことを察してきたらしいルックが、明らかにアホだろという様子でまた溜息。
「こうすればいいわけ?」
言いながら少しかがんで、私を腕の中にすっぽり収めた。
すかさずルックの背に腕を回してぎゅーっと抱きしめ返す。
耳元でルックがやれやれと呟くのが聞こえたが、無視。
ルックの少しだけ低い体温にほっとして、やっと構ってもらえたことに嬉しさを覚えながら私は目を閉じた。