どれだけの間そこにたたずんでいたのだろう。
 ぱらぱら小さな音がそこかしこで聞こえている。轟音はもう大分前に鳴り止んでいて、今はただ静寂の中微かな音が響くだけ。
 風が砂塵と声を攫う。言葉が出ない。頭が上手く、働かない。現実を現実として認めない。ああ、違う認めたくないんだ。私は、今この目の前に広がる現実を。
 ここにあった、巨大な遺跡。古い時代の古い建造物。どうしてこんなものがあったんだろう。こんなものなければきっと、彼は。そう、彼はいなくなったりしなかったのに。
 しゃがみこんで遺跡の欠片に手を伸ばした。予想外に鋭いそれは私の指を傷つける。ぷつ、と紅い血が珠状に浮かんで、零れ。地面に真紅の花を咲かせた。
 その鮮やかな色があまりにも現実味を帯びていて。瞼の奥が熱くなる。頬を流れ落ちる何かを感じる。
 ぱたり、ぱたりと大地に咲く透明な花、真紅の花。
 何も無い場所だから。これをアナタへの手向けとしよう。
 もう出会うことの出来ないアナタ。この世界からいなくなってしまったあなたへ、さよならと大好きの気持ちを込めて。



05:さような ら、 幻想水滸伝V・ルック
title by 追憶の苑