耐える

「痛いなら痛いって言っていいんだよ」
「う……大丈夫、です」
「……全然大丈夫じゃなさそうなんだけどな。我慢されてると僕としてもやりにくいし」
「じゃあ…痛いです。相当痛いです。どうしていいかわかんないくらい痛いです」
「初めから素直にいえば良いのに」
 呆れたように苦笑して、王子はいったん手を止めた。
 くるくると巻かれた白い包帯。それはいつもはお仕着せの長いすそで隠れた足首を固定するようにきつく巻かれていた。

 ドジをやらかした。
 立ち上がろうとしてちょっとバランスを崩して。そのまま服の裾を踏んづけて、よろめいて倒れまいと踏ん張った瞬間足を変な風にひねってしまった。
 今まで感じたことの無い痛みが脳天を突き抜けるように走り、動けなくなっているところへ王子がやってきて、現在に至る。
 捻挫か、骨折か。とにもかくにも服の裾を捲り上げた私の足首は吃驚するほど赤くはれ上がっていた。
 ああ、見なければ良かった。

 応急処置をするといわれて、始めは私も断った。だって考えても見て欲しい。
 現在は王宮を離れているといっても、相手はこの国の王子だ。いくら私でも王子に足を差し出すなんて恥ずかしくも恐れ多いまね、できるはずが無い。
 しかしここで譲らないのもまた王子である。
 十分以上にわたる押し問答のすえ、押し切られたのは立場の弱い私の方だった。

「……こんなとこかな」
「すみません、王子」
「いいよ。それより一応ちゃんと診てもらったほうがいいね。シルヴァ先生のところに行こう」
「はい…でもあの」
 しゃがみこんだ王子を見下ろす。なんかこの体勢やだな。
 立ち上がらない私を不思議そうに見上げる視線に、思わずそっと目をそらした。
「た、立てません…」
 足が痛くて。
 言外にそう告げると、一瞬きょとんとした王子は次の瞬間小さく噴出した。
 仕方ないなぁと良いながら王子が立ち上がる。
 そして。
「わっ」
 ひょいと。それこそひょいっと軽いものを持ち上げるかのように私を抱え上げた。
 俗に言うお姫様だっこというやつだ。この年でこれをやられるようになるとは相当恥ずかしい。
「ち、うわっ、王子! 降ろしてください! 恥ずかしいですからっ!」
「うーん。却下。歩けないんじゃ仕方ないでしょ」
 ぎゃーぎゃー喚く私を気にも留めず(耳元でうるさいだろうに)、王子はそのまま私をシルヴァ先生の所まで強制連行していった。
 尚、王子にお姫様だっこされた私の姿は沢山の人に目撃されており後で散々からかわれる羽目になる。