なんだか疲れた…のかもしれない。
ここのところバタバタしていたからそのせいだ。昨夜も寝たの遅かったしな。
ああ、瞼が重い。でもまだまだやらなくちゃならないことはいっぱいあるのに。
うー、駄目だ。意識が…遠のいていく……。
部屋に戻ってきたら椅子に座り込んだまま身じろぎ一つせず、小さな寝息を立てるが居た。
珍しい彼女の姿に一瞬足が止まる。
「?」
名前を読んでも返事は無い。どうやら熟睡してしまっているようだ。
壁に頭を預け、瞼を閉ざしている。彼女の姿をこんな間近に見たのは初めてかもしれない。
目元に陰を落とすまつげは意外と長い。
薄く開かれ息を立てる赤い唇に目が引き寄せられた。
始めてみたときから彼女が好きだった。一目ぼれ、といってもいいかもしれない。
王宮で父上に引き合わされた時、緊張したように僕を見る彼女の姿が可愛くて。その彼女が僕付の侍女になると聞いたときは嬉しかった。
ずっと、好きだと。それをアピールしているつもりなのに、彼女は本気にとってくれない。
僕が年下だからいけないんだろうか。
きっと弟ぐらいの感覚でしか見てもらえてないんだろうな。
悔しいというか悲しいというか。
安全圏で警戒されてないというのは…いいんだけど。
「少しはちゃんと見て欲しいんだけどな」
そっと頬に触れた。
そのまま視線を合わせるように身をかがめて、そっと。
唇に、触れる。
「……」
はじめて触れたの唇は冷たくて。
風邪を引かないようにと布団の上掛けを一枚持ってきての体に掛けてあげると、僕は音を立てないよう部屋を出た。
「……っ」
ガタンと音を立てて椅子から立ち上がる。
火を噴いたように顔が熱い。
「き、キスされた…」
心臓が早鐘のようになる。初恋もキスも未経験の少女じゃないんだから、こんなに動揺するのも可笑しいとは思うけど。
「見てないわけじゃ…ないんだけど…」
ああ、明日からどんな顔をして王子に会えば良いんだ。
また今日も眠れそうに無い。