嫉妬する

 久々の感覚に胸が躍る。

 剣を握った右手を前に突き出し、体は相手に対して平行になるように構える。左足を少し後ろに下げて、膝を軽く折る。
 強い相手を前にするとわくわくするのは昔から変わらない。
 向き合う。相手が動くのと同時に、私も突きを繰り出す。

「あれ?」
 リオンが何かに気付いて足を止めた。王子、と僕の袖を引く。
「あれって、さんじゃありませんか?」
「え……」
 言われてリオンが見る方向に同じく視線をやると、常のお仕着せとは違う動きやすそうな服装で剣を構えるの姿があった。
「剣の練習でしょうか。さん剣を使えたんですね。知りませんでした」
 リオンの言葉に僕も頷く。
 が剣をたしなんでいるなんて知らなかった。
 相手は誰だろうと目を凝らして見ると、最近仲間になったベルクート。
 僕の胸の中にもやもやとしたものが広がっていく。
 なんだろう。面白くないような。
 僕の知らない彼女が居たことが面白くないのか、それとも別の男の人と剣をあわせているのが面白くないのか。ああ、これは多分嫉妬だ。
「え、あ、王子!?」
 驚くリオンの声に足を止めることもなく、足早にその場を離れた。

 額に浮かんだ汗を拭う。久々に良い運動をした。
「ありがとうございました、ベルクートさん」
「いえ。さんはとても筋が良いですね。動きも悪くない」
「そうですか? 嬉しいです」
 剣を鞘に収めてベルクートさんを見上げると、おや、と言った様子で彼が目を見張った。
 どうしたのだろうかと問いかけるまもなく、腕を引かれる。
「っ、あ、王子!?」
 そのままぐいぐいひかれて気がつけば城の建物の中へと連れて行かれていた。
「どうしたんですか、王子」
 なんだろう。機嫌が悪い気がする。
 私に背を向けているから王子の顔は見えない。
「剣…」
「はい?」
「剣、扱えたんだね。知らなかった」
「ああ、言ってませんでしたっけ? たしなみ程度にですけど、昔少しやっていたんですよ。それがどうか?」
「剣なら…僕が教えてあげるのに」
 ふてくされたように呟く王子に、なんとなく彼の心中が察することができて思わず笑みがこぼれた。つまり、あれか。やきもち、かな。
「でも王子の得物は剣ではなく、三節棍でしょう?」
「う……」
 ぐっと押し黙る王子に私はこらえきれずにクスクスと笑みをこぼして、目じりに浮かんだ涙を拭った。
「王子には剣じゃなくて、棍の使い方を教えていただけませんか? 私棍って使って事ないですよ」
 お願いできますか? と聞けば、王子はどうやら機嫌を直したようで。嬉しそうに頷いた。