最近気付いたことがある。
自分でも気付かぬうち、私はどうやら王子を好きになっていたようだ。
さて、どうしたものか。
城の庭先で一人云々唸っていると、とんとんと肩を叩かれた。
振り向けばそこには満面の笑顔の最年少女王騎士、ミアキス様が立っていた。
ちょっとお茶しながらお話しましょう〜、と連れてこられたのは何故か城の地下にある酒場で。ぶっちゃけここはお茶を飲む場所ではないんじゃないだろうかとも思うのだけど、とりあえず促されるままにカウンタの席に腰を下ろす。
昼間だからなのか、どうなのか。人影はまばらだ。
「バーテンさん、紅茶二つお願いねぇ」
「……えと、ここは酒場なのですが……女王騎士様のお願いなので、なんとか」
引きつった笑顔でバーテンさんは頷いていた。
心の中で一応すみませんと謝っておく。
「あー…えっと、ミアキス様。お話ってなんでしょう?」
「ミアキス様なんて他人行儀、ミアキスで良いっていつもいってるのにぃ」
「でもやっぱり私ただの侍女ですから」
「ちゃん頭固いわよぅ」
つんとおでこをつっついて、ミアキス様は面白そうに笑った。
ミアキス様と私と、実はあまり年が違わない。そのせいもあって割りとよく話はするのだ。
時々頓珍漢というか、意味不明な言葉を発するミアキス様だけど明るくて優しい方だから離していて少しも不愉快になることがない。なんというか、とっても不思議な方。
間延びしたしゃべり方がまた可愛らしい。これで女王騎士様というのだから、人ってわかからないものだとつくづく思う。
「それでねぇ、今日はちゃんに聞きたいことがあるの」
「聞きたいこと、ですか?」
「うん。うーん、あんまり大声でいうとまずいかしら」
そういって顔を近づけて声量を落とし、ミアキス様の口から発せられた言葉に、飲みかけていたちょっと色の悪い紅茶を危うく噴出しかけた。
「ちゃんて、王子のこと好きでしょ?」
「ぶっ…」
せきこむ私をあらあら、と微笑ましく見守りながら自分も紅茶を口に運ぶミアキス様。決して噴出したのは、このちょっと色の悪い紅茶の微妙な味のせいではなくて。
「あんまり美味しくないわねぇ」
それを言っちゃいけませんと、突っ込みたいけど咳のせいで出来ず。ミアキス様の一言にショックを受けたバーテンさんに哀れみの視線をさりげなく送る。
「っ、み、ミアキス様? 突然何をおっしゃいますか」
「うん? だってぇ、ちゃんの王子を見る目がとっても優しいから」
「……そうなんですか?」
「そうよぅ」
驚いた。そんなに顔に出るもんなんだ。
ということは何か。他の人にもバレていたりするのだろうか。それはまずい、非常にまずい。
「うふふ、大丈夫よぉ。他に気付いてる人はいないみたいだし、ああでもカイル殿あたりは気付いてるかもしれないわねぇ」
よりによって一番知られたら厄介そうな人に気付かれてるって、どうなんだろう…。
ほのぼのと言ってのけるミアキス様に私は心底泣きたい気持ちだった。