掛けられる言葉が見つからなかった。
事の真相を知らされたって、それは王子に何一つ希望をもたらすものではなく。逆にただ悲しい、両親に終わりを知ることになるだけだった。
泣きたくても泣けない。泣いちゃいけない。
そんな王子の姿を見ているのは正直、忍びなく…私の方が胸がくるしくなるほどだった。
「王子」
私の声にうつむかせていた顔をびくっと上げる。見開いた瞳は乾ききっていて、少しも潤んでいないけれど。無理やり浮かべた笑顔は痛々しい。
「何? 」
続く言葉が見つからなくて、思わず唇をかんだ。
ああ、なんて不甲斐ない。私よりずっと若い少年が心を痛めて苦しんでいるというのに、気の聞いた言葉何一つ掛けてあげられないなんて。
「ごめんなさい、王子」
「どうして謝るの?」
「私は何一つ、気の聞いた言葉であなたを慰めてあげることが出来ません」
役立たずで、申し訳なさ過ぎて。自分自身に腹が立つ。
だけど一つだけ、出来ることはある。本来、私なんかがするべきことではないのだろうけれど。
今はこうするべきだと思った。
「王子」
力なく椅子に座り込んだままの王子に歩み寄り、見上げてくる王子の頭をそっと抱きこんだ。
驚いたように息を呑む気配が伝わる。けれど突き放そうとはしない。
「我慢しないで下さい。泣きたいときは泣いても良いんです」
泣くことが弱さだなんて、誰も言わない。悲しいときに素直に泣けることこそがある種の強さだと思う。
「もちろん王子が泣いたことは誰にも言いません。私も…すぐに忘れます。だから今だけは、どうかお心に正直になってください」
「うん……ありがとう」
ぎゅっとしがみつくようにして私の背に手を回す。
小刻みに震える王子の体と、息遣いと。
声を押しごろして泣くその姿があまりに切なくて、私の視界も思わずにじんだ。