起こす

 窓の外ではちゅんちゅんとスズメが愛らしい鳴き声を上げて羽根を休めている。
 腕まくりをし、かつかつと歩み寄った窓を大きく開いて部屋の空気の入れ替えをするれば、準備は万全整った。
 くるりときびすを返せば部屋のすみ。どんと置かれた豪奢というほど豪奢ではないが、質の良いつくりのベッドの中にまるくなる少年の姿。
 布団の墨からはみだした銀色の髪が、くるくると弧を描いている。
 ふ、と口の端を吊り上げて布団に手をかけた。

 実を言うとこの王子、寝起きが相当悪い。
 一声掛けただけじゃなかなかおきてくれないので、王子付の女王騎士様が来るまでに起こすのが私の役目となっている。
 ん? 女王騎士様? 見習いといっていただろうか。…まあいい。

「王子、おきてください。朝ですよ」
「……」
「外は良いお天気ですよ。いつまでも寝てると頭にキノコが生えちゃいますよ?」
「……」
「王子ってば! ほらほら、早くしないとフェリド閣下に言いつけちゃいますよ? 起きてくださいっ! 殿下!!」
「……」
「王子ー」
「……」
「んもう……」
 腰に手を当ててやれやれと溜息をつく。
 困ったなとクビを傾げていると突然、腕を引かれた。
「っ、わ…」
 ぼふっと顔面に柔らかい衝撃が走る。
 ベッドにうつぶせに倒れたのだと認識するなり、慌てて起き上がろうとしたがどうしたものか。がっちりと何かに抱きつかれて出来なかった。
「ぎゃー! 王子! は、離して下さい!」
 くぐもった声で抗議してみるが、返ってくるのはくすくすと意地悪そうに響く王子の笑い声だけで腕の力は弱まることが無い。
 早く離してもらわないとリオンさんが来ちゃうのに!
 こんなとこ見られたら私の明日はない。
 ジタバタと暴れていると唐突に扉ががちゃりと音を立てて開いた。
 げっ。
「お早うございます王子。起きてま、す…か……」
 私と王子の現状を見て、思わず固まったと思われるリオンさんの不自然に途切れる声に、私はああと内心あきらめの溜息をついた。
 もうどうにでもなってくれ。
 ちなみにそのあと我に返ったリオンさんに助けられ、いつもすみませんと謝られた。