王子が難しい顔をして戻ってきた。
確かさっきロードレイク視察から戻ってきて、姫様にお会いするんだといって部屋を出て行ったのだと思ったけれど。
時間は大分たっている。何か、あったのだろうか。
「王子、どうかしました?」
「名前…」
「…様、どうかなさいました? …これでご容赦下さいな」
苦笑を交えて言うと珍しくそれ以上言うことなく、王子は頷いた。
「…ん」
「何かありましたか? 確かリムスレーア姫様の所へ行くといってませんでしたっけ?」
「うん。リムとリオンとミアキスと伯母上と…後誰かいたっけ。一緒に闘神祭の参加リスト見てきたんだ」
闘神祭といえば、姫様の婿君を決めるための競技だったはずだ。
ピンと来た。ああ、なるほど。
「つまり、あれですか。面白半分でリストを観にいったはいいけれど、逆に複雑な気分になってしまったわけですね? 兄上様としては可愛い妹君を他の殿方に持っていかれることが面白くないな、と」
「そうなのかもしれない」
神妙な面持ちで呟かれた王子の言葉に私は思わず噴出してしまった。
ああなんて微笑ましい。
「妹思いの優しいお兄様で、リムスレーア姫様がうらやましいですね。でも駄目ですよ、王子。妹離れちゃんとして下さいね」
「解ってるんだけど」
複雑なんだといわんばかりの表情で溜息をつく王子の様子が娘を嫁に出す父親みたいで笑えた。王子がこうなんだから、フェリド様なんてもっと複雑な気分なんだろう。とはいえ、王家に生まれた以上こうなる運命は避けられないんだろうけれど。
「仕方ないですよ。誰が決勝で勝ち残るかはまだまだわかりませんけど、良い人だといいですね」
「うん。そうだね」
そういって王子は深々と二度目目の溜息をついた。