城が襲撃されたとき、私は王子とともに逃げなかった。
逃げようと、手を差し出されたけれどその手をつかむことは出来なかった。
私が行けば足手まといになる。王子には、生きて逃げて欲しいから。だから。
私は太陽宮に残ることにした。いつか、王子の下へいけることを願いながら。
王子の部屋で仕事をすることもなくなり、割と自室に篭りがちになった私の元に度々訪れてくれるようになったのが女王騎士のカイル様。
いつも飄々としていて女の子大好きで、すごく軽そうなこの人は本当はとても優しい人。
カイル様はいつも私の部屋に来ると手土産に話を持ってきてくれるのだ。
そして私はある日、カイル様と共に太陽宮を脱出することにした。王宮から出るのは案外たやすかった。もともと王宮という場所には抜け道が沢山ある。それの一つも知っておけば、外に出るのは難しくない。
ソルファレナを出た私とカイル様は五日余りして、レインウォールにたどり着いた。
カイル様が教えてくれた、今現在王子が身を寄せているというバロウズ卿の町に。
ドキドキする。
町の中ひときわ大きな建物の前で、カイル様と共に立つ私は自分の鼓動が加速していくのを感じていた。
王子に会うのは久々だ。元気でやっているのだろうか。
「じゃ、行こうか」
促され、扉を叩くカイル様。応答があって扉が開く。少しのやりとりがあって、私とカイル様は屋敷の中に招き入れられた。
残念ながら王子たちは出かけていてすぐには逢えなかったのだけれど、猛しばらくすれば戻ってくるとの事だった。
立派なつくりの屋敷の中で、私は落ち着かない思いをして王子たちの帰りを待っていたのだが。
しばらくの野宿でろくにねむれず、疲れた体はどうやら睡眠を欲していたようで。王子の帰りを待っている間に、私はいつの間にかうとうとと眠りについてしまっていた。
太陽が傾き始め、部屋が茜色に染まり始めた頃。
「 」
聞きなれた声で名を呼ばれ、私はようやく目を覚ました。
霞む意識と視界の向こう、泣きそうな顔で微笑んでいるのは王子で。それがわかった瞬間、私は一気に覚醒した。
立ち上がった瞬間王子に優しく抱きしめられる。思わず息を呑んだ私だったけど、王子の体が小さく震えているような気がしてそっと抱きしめ返した。