わいわいぎゃあぎゃあ。
城の地下にある食堂の片隅で騒ぐ二人を少し離れた席からうんざりして眺めていると、ふいに後ろから声がした。
「なんだアイツら。またやってるのか」
呆れを含んだその声に、振り向くと後ろに鎧を纏った長身長髪の人が立っている。ぐぐっと首を限界までのけぞらして顔を見れば、かなり背の高いその人はリンドブルム傭兵団のミューラーさんだった。
「……ミューラーさんは確かリヒャルト君の保護者ですよね?」
いつ誰が決めたんだと聞き返されそうだったが、そこはあえて知らぬフリをし、言外に何とかしてくれと告げてみる。
ミューラーさんは強面の顔を一瞬潜めて、王子と言い合うリヒャルト君とそのリヒャルト君に負けじと言葉を返している王子の二人を見ると次いで私を見て、無理だというように無言で首を振られた。
ミューラーさんの言葉なら、リヒャルト君は聞くと思うんだけどどうなんだろう。
「何とかしてください」
そう思って、今度は声に出していってみるが、肩をすくめて誤魔化されただけだった。
全く王子もリヒャルト君も何をそんなに意地になっているのだろう。ここからだと何を言い合っているのか良く聞き取れないが、会話の中に「」という言葉が混ざっていることから、多分また…自意識過剰でもなんでもなく、私のことを云々言っているのだと思う。
思わず顔をゆがめ深々と息を吐き出した私を励ますように、ミューラーさんの手が肩に置かれた。
「お前も大変だな」
「そう思うなら止めてください」
今すぐにあの二人を。切実なる私の訴えかけは、しかしさらりと無視される。
「にしてもあいつらあきねぇのか…いつまでやってるんだ」
「朝からずっとやってます」
「朝からって…おい、もう昼過ぎだぞ」
「だから止めてくださいって言ってるんですよ」
あの二人を放っておくと何をしでかすかわからない。危なっかしくて目が離せないから、彼是数時間繰り広げられる二人の攻防をここから見守る、もとい眺めていたのだ。
胃も痛くなってくるというものだ。
「ちょっと医務室行って来ます。ミューラーさん。あの二人、私の代わりに見張っててくださいね」
有無を言わさず立ち上がると、遙か後方から盛大な声が聞こえた。しかもダブルで。
「「あーーーー!!」」
まずい見つかった。そそくさと立ち去ろうとする私の腕をがっちりつかんで話さないのは、あろうことかミューラーさんで。ああ、私は犠牲ですか生贄ですかと目で訴えかけてみるが、それもまた先ほどの訴えかけのようにさらりと無視された。この人…冷たい。
「ミューラーさんずるい!」
「。いたならいたで声かけてくれれば良いのに」
もしかして王子、ずっと気付いてなかったんですか。
はらはらと心のうちで涙を流す私の両腕を、いつかのように二人ががっちり固めた。
「え、ちょっと」
「何処行こうとしてたの?」
王子がきらきら輝く笑顔で私に問いかけてくる。
「え、とちょっと医務室に」
「じゃあ一緒に行ってあげる」
「あー王子ズルイ。僕も一緒に行く」
「いえ、あの。一人で大丈夫ですからホント」
寧ろ一人で行かせて欲しい、頼むから。
しかしその後二人が私の腕を放してくれることは無く、私はそのまま医務室まで連行されたのであった。
そんなこんなで今日も平和に…過ぎていく。