王子は私が他の男の人といるとすぐにやきもちを焼く。
まあそれも…可愛らしいもので、やきもちを焼いてくれるということはそれだけ慕われているからということで私としても嬉しいからいいのだ。だが多少度が過ぎるときがある。
特に酷いのがカイル様といる時で、その時は本当に何をしでかすか分からない。
「カイル、少し僕と打ち合いをしようか」
にこっと。それこそにこっと。他の誰かが見ようものなら一発KOできてしまいそうな程可愛らしい笑顔でカイルに声を掛ける王子の言葉は、傍から聞けばただの打ち合いの申し出。
けれど言われた当の本人からしてみれば、それは死の宣告にも等しかった。
「お、王子…?」
青い顔をして壊れた人形のように首を縦に振るカイル様を横目に、控えめに声を掛けてみる。
「はちょっと待ってて? あ、危ないから絶対に来ちゃ駄目だよ?」
そういわれてしまっては私も頷くしかない。
引きつる笑顔を浮かべつつ、カイル様の無事を祈りながらも更に助けられなかったことを心の中で謝りながら二人を見送った。
それからしばらくして戻ってきたのは王子だけで、嫌な予感を抱きつつカイル様はどうしたのだろうかと心配していたら、カイル様はミアキス様によってセラス湖に浮かんでいるところを発見されたらしい。ミアキス様は発見はしたものの、保護はしてくれなかったようだ。同僚なのに、冷たいと思う私は間違っているのだろうか。
まあそれはいい。
「王子!?」
慌てて王子に詰め寄ると、王子は僕じゃないよと本当か嘘か分からぬ答えを返した。
「本当ですか? 本当に王子がやったんじゃないんですね?」
「うん。僕に嘘はつかないよ?」
さらに問い詰めた私に王子はなんとも可愛らしい答えを返してくれた。
後に聞いた話によると、カイル様は確かに王子が直接手を下したわけじゃないらしいが、なにやら打ち合いの途中で顔を真っ青にし、一人で勝手に湖に飛び込んだらしい。それこそすごい必死の形相だったそうだ。
真偽の程は定かではない。
少しだけ…というか、かなり王子の黒い一面をしった気がする出来事だった。