私の右と左を陣取るように構える、二人の少年。
「で、何で君がここにいるの?」
効果音がつきそうなほどニコニコと明るい笑みを見せる王子(右)。
それと同じ位ニコニコと人懐こい笑顔を見せる、つい最近知り合いになった少年(左)。
「何でって、さんがいるから」
なんの衒いもなくぶっちゃけて下さった少年に、頭痛がする思いだ。
そっと隣の王子を見やれば相変わらずの笑顔だけれど…。
王子、目が笑ってないですよ。
どういうわけかなつかれた不思議な少年。
一見して優しそうな子だけど、聞いた話によるとリンドブルム傭兵旅団とういところの突撃隊長なのだそうで、件の腕は相当強いらしい。
そんな彼になつかれたきっかけ、というのはなんてことない。
あいた時間にベルクートさんと剣の手合わせをしていた所を目撃されて、それ以来何故か分からないけれどついて回ってきているのだ。本人曰く「僕とも手合わせして下さい」とのこと。
何故素人レベルの私と手合わせなんかを望むのか、甚だ謎である。
自分でいうのもなんだが、私は王子に気に入られているようだしその王子は実は結構ヤキモチ焼きだったりするからなるべくバレないように気をつけていたのだけれど。
その苦労も空しく。
偶然ばったり鉢合わせをしてしまったのだ。
こういうとなんだか浮気現場を目撃された女のようで些か微妙な気分にもなる、が。
そんなことを頭のすみっこで考えていると、ぐいっと腕を引っ張られた。
「王子?」
ギギギと擬音がつきそうなほど不自然に固まった首で王子をそろりと見る。
ああやっぱり目が笑ってない。口の端を吊り上げた笑い方は怖いからやめたほうがいいです、王子。そう進言してあげるべきか否か。
そんなことを私が考えていると知ってか知らずか(多分後者)、王子は私の左側を陣取る少年にすがすがしいまでの笑顔を見せた。
「言っておくけどね、リヒャルト。はあげないよ?」
あげるあげないって、物じゃないんですという私の主張は多分聞き入れてもらえないに違いない。
言ってさらりと無視されるのは寂しいので、そう呟くのは心の内だけに止めておく。
「は僕のだから」
私は一体いつ王子の所有物となったのでしょう。
全く身に覚えのない事であるけれど、しかし私は王子付の侍女であるからにしてやはりそういうことになるのだろうか。わからん。
悶々と一人考え込んでいると、左側を陣取っていたリヒャルトも負けじと私の腕を引っ張った。
両手に花ってまさにこういうことを言うのではないのだろうか。
この場合はでも花というより…なんだろう。
「えー、僕もさん欲しいー」
なんて危ない発言をしてくれるんだろう、この子は。
ぎょっとしてリヒャルト少年を見ると、相変わらず気の抜けるような癒されるような判別しがたい笑顔をほのぼのと見せていた。ああ、邪気がないってこういうことを言うんだろうな。この子は天然だ。
「あ、あのですね、お二人とも」
おずおずと自己主張を試みる。
「とりあえず、私はモノではありませんし、あの、それに取り合っていただくほど大層な生物でもないので。仕事もありますし、そろそろ解放して頂きたいのですが…」
人はコレを逃げ、という。
弱虫と罵られようと蔑まれようと構わん。私は今この瞬間、この場から逃げ出したかった。
冷や汗を浮かべつつの私の言葉に、二人は駄目だと言わんばかりに腕の力を強める。
よりいっそう逃げ出すことが困難になったのは他でもない、自分のせいだ。
己のアホさ加減に泣きたくなりつつ、いつまでこの状況は続くのだろうと私はそっと晴れ渡る空を仰いだ。