「王子起きてますか?」
朝。いつもの調子で王子を起こしに部屋に向かう。
ノックをしながら声を掛けてみるがやはりいつもの調子で、中からの反応はない。
小さなあくびを噛み殺しつつドアを開けると、カーテンの閉まった薄暗い部屋の中。布団に丸まるようにして眠る王子の姿がある。
猫みたい。
すやすやと健やかな寝息を立てて、気持ち良さそうに眠る王子を起こすのは気が引けるけれど仕事だから仕方がない。いや、それ以前にもう日は昇っているのだから起きてもらわねば困る。
気合を入れるため腕まくりをして、まずは名前を読んでみる。
「王子、王子。朝ですよ、起きてください」
「……すぅ」
反応はない。返ってくるのは静かな寝息ばかり。
しばらくそのまま様子を見るが以前変わりなく。
うん。分かっていたことだ。
名前を読んだくらいじゃ王子が起きないことなんて、今までの経験上よく知っている。
「仕方ない」
ならばやはり、強硬手段に出るしかあるまいと布団に手をかけた瞬間。
「うわっ」
手首を掴みひっぱられて私の身体は王子の上にダイブした。
……確か前にも同じことがあったな。ということは、王子は起きている?
ふかふかとした布団の温もりを頬に感じながら、今度は冷静に思考をめぐらせる。
「王子、悪ふざけはやめて、ほら起きてください」
布団に顔を押し付けたまま(王子にがっちり抱きこまれている為身動きが取れない)そう言ってみるが、王子からの反応はない。いつもならここで王子の笑い声が聞こえてきて、しょうがないなぁと言いながら話してくれるのだが。
「王子?」
もぞもぞと少しだけ顔を動かして王子の様子を伺ってみると、どうやら熟睡しているらしく今だすやすやと気持ち良さそうな寝息だけが私の耳に届いた。
「仕方ないなぁ」
思わず苦笑が零れる。
色々と仕事も有るようだし、王子も疲れているんだろうな。
そんなことを考えながらしばらくそのままの体勢でいたわけだけど。
王子の温もりと、布団の心地よさと。
加えてカーテンを今だ開けていない室内の薄暗さとの相乗効果で、いつもなら有りえないことに私もつられるようにそのままうとうとと眠ってしまった。
一生の不覚だ。
目が覚めたのは、中々起きてこない王子の様子を伺いにきたミアキス様の一声により。
「あら、あらあらあらあらあらぁ」
何かを誤解しているらしいミアキス様のその誤解を解くのに、大変苦労したということは。
言わずもがな、である。
なんだか朝から大変疲れた一日だった。