意識する

 見慣れているはずなのに、なんだろう。
 ドキドキする。
 ああ大人の女性なんだなと。ちょっとだけ思った。

 さらさらと目の前を流れる綺麗な銀色の髪。いつもは結われているそれは珍しく、背に流されたまま。窓から入り込んだ髪に音を立てるかのようにゆれる。
 顔立ちも髪の色も全部お母上譲りの王子は、そうしているとまるで女の子のようだ。それを口にすればすねること間違いなしなので、心の奥底に止めておくのだが。
 いつもは自分よりも高い位置にある王子の頭が今は私の胸に高さにあって。つまり椅子に座った王子の後ろに私が立っている格好なのだが。
 失礼しますと声を掛けてから左手で髪を救い上げて、右手に持った櫛で静かにすいた。
 ……なんかムカつく。
 と一瞬思ってしまったのは仕方の無いことだと思う。
 女の私が思わず嫉妬してしまうくらい手触りの良い、柔らかい髪の毛。
「……王子ズルイです」
「何が?」
「あ……やだ、口に出てました?」
「うん」
「気にしないで下さいね」
「気になるんだけど……」
「気になりますか?」
「うん」
「気にしないで下さい」
「何、それ」
 意味わかんないよ、とばかりに苦笑している王子の姿が鏡越しに見えた。
 櫛を鏡台に置いて、王子の髪を編んでいく。ある程度編んだら髪飾りで止めて、終わり。
「はい。出来ましたよ」
「いつもありがと」
「いいえ。私の仕事ですから、お気になさらず」
 櫛を木箱の中にしまい込んで所定の位置に戻そうとすると、王子に手をつかまれた。
 なんだろうと王子を見れば、じーっと私の頭を見つつ。私の視線に気付くとにっこりと笑う王子。何か、嫌な予感が駆け巡る。
「僕さ」
「は、はい」
「考えてみたら、が髪下ろしてるところ見たことなんだよね」
「はぁ。仕事をするのに髪を下ろしていたら邪魔になりますから。いつも上げていますしね」
「うん。だからさ、下ろして見せて?」
「…はぁ?」
 いぶかる私にお構いなしに、早く早くと王子はせかせて私を椅子に座らせた。本人の許可なく髪留めをするりとはずし、はっと気付けばいつもは高くまとめてある髪が背中にばさりと落ちる感覚。
「ギャー! 何してんですか、王子!」
 とじたばた足掻くもこの王子に勝てるはずもなく。
 そのあと王子の気が済むまで髪を弄ばれた。