美しいまま姿を留めて。永遠に朽ちることなく。
それは本当の美なのだろうか。
人や生物。短い時を生きるモノのみが持つ、儚さ。
それが本当の美なのではないかと思う。
花瓶に生けられた花は生花ではなく。かといって人の手で作り上げられた造花でもない。どちらかといえば後者に近いものだけれど。
くすんだ赤を持つ、その花は薔薇。
すでに死んで、それでもなお姿を留めて。人の手によって留める事を強要された哀れな花。
「綺麗だと思う?」
冷めた瞳を向けて、彼女は問い掛けた。
答えを返すものは、同じように冷めた瞳をソレに向けて、別にとそっけなく返す。
「ドライフラワー…。乾燥させた花、ね。人って残酷。生きている状態の花を逆さにつるして、殺して。死んだ花をずっとこうして飾って、鑑賞するのだもの」
手を伸ばして触れたソレはカサカサと乾燥した肌触りを指先に伝えた。
瑞々しさの欠片もない。そのことが不愉快だったらしく、は眉を潜めて花を握りつぶす。
軽い音がして、花はこなごなに砕けた。
「呆気ない…」
握った拳を開くと、砕けた花の残骸がパラパラと床に散らばる。それは窓から入り込んだ風によって攫われていった。
花の失われた茎を指先で弾いて、は笑う。
「ねえルック。あたしたちも考えようによっちゃ同じよね」
「は?」
「生きたいわけじゃないけど、簡単には死ねない。この姿のまま。ずっと同じ外見のまま、あと何年生きるのかしら? ……生かされるのかしら」
「さあね。けど僕らは」
「そう。あたちたちは、紋章の呪で不老だけど不死身ではない。だからいつか……そう、こんな風に」
攫われそこねた薔薇の残骸を指先でつまみ拾い上げて、はくっと唇をゆがめた。
細い指先で弄ばれた花弁は、たちまち火に包まれて燃え尽きる。
「誰かの手によって壊される。殺されてしまうかもしれないわね」
悲しみ、恐怖を感じているでもなく。
ただ微笑みを交えて、はそう告げた。